二人の姫の叶わぬ願い
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と心を傾け始める。
何処か心に芯が通ったような感覚がして、拳をぎゅっと握った。自分を確かめるように、何度も。
「守りたい」
口に出してみた。すっと胸に溶け込んだ。力が湧いてくる。これが自分のしたい事だ、と彼女は確信した。
次いで湧いてくるのは感謝と懺悔の念。気付かせてくれた徐州を守るモノ達に、聞こえずとも心に留めておいた。
ふいに思い出されたのは、舌戦の時の黒麒麟の瞳。殺せる事も出来たはずなのに逃がされた事は知っている。しかし屈辱はもう呑み込んでいた。
痛ましい瞳を思い出して、逆に膨らむのは期待であった。
劉備や徐晃のような大徳と言われるモノ達が、自分と同じ想いを以って戦っているかもしれないというモノ。
そこには一寸の違和感があった。劉備はまだいい。しかし黒麒麟は……と考えると、徐晃隊を思い出して思考が翳る。
――あれではまるで部隊というよりも……一つの……
思考を巡らせる内、思い立った内容をくだらない事だと頭を振って否定した。
主に忠を誓わず、あれほどの部隊を作れるものか、と。常識人な彼女は彼の異質さを知らない。
そして何よりも、姉が絶対に必要だと言っていた理由が、大徳の元でも覇の思想を持ち、いつか来る治世の為だけに力を是とする事なのだとは知らなかった。
自身の心を確固たるモノにした彼女の耳に、突如、リンと高く小さな鈴の音が聞こえた気がした。
蝋燭が五分の一ほど溶けた頃、悟られぬように、気取られぬように自然な動作で天幕を出る。不審げに見やる、警備とは名ばかりの監視兵に厠だと告げて歩く事幾分。
立ち止まって夜空を見上げ、星々の数を数えているように見える彼女の後ろで……すっと、一人の兵が通り過ぎ様に言葉を零した。
「首輪が外れました」
短い一言。たったそれだけで蓮華の心に歓喜が溢れた。
崩れ落ちそうになる膝をどうにか奮い立たせ、零れそうになる涙をどうにか抑え付け、大きく息を一つついた。
妹の無事、それが分かった今の彼女は何でも出来そうな気がした。もはや縛り付ける首輪は無い。本当の意味で、自分達の為の戦いが出来るのだ。
ゆっくりと歩みを進める。向かう先は自身の天幕……では無かった。
二千の兵と言えども、孫呉の兵は一つに纏められてはいない。陣内各所にばらけさせられ、簡単に集まる事は出来ない。
亞莎が考え抜いたのは、如何にして囮の蓮華を無事に抜けさせるか、と同時に、袁術軍に混乱を齎せるか。
急激な速さで成長した蓮華だけの軍師は、一つの策を捻り出した。
この陣内にいる兵を一番の混乱に陥れるモノは何か、と考えたなら、行き着く先は一つ。
突然、蓮華は駆けた。後ろも振り向かず、ただ一直線に陣の外へと駆け抜ける。
遅れて甲高い、それでいて良く響く笛の音が、
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