二人の姫の叶わぬ願い
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下の命を消費して作り出す紅き道は、互いに信を置いていなければ作れず。孫呉の精兵を容易く貫く連携連撃も、共に戦う仲間を信じられなければ為し得ない。
ただ命を賭けるから着いて来る……というわけでは無く、一人一人に想いを行き渡らせて共有しなければ乱世を抜けるには足りない。それが蓮華には足りないモノ。
――私はただ、言われるがままに王になろうとしていなかったか。
受動的に、ただ単に平和な世界を目指していた彼女は、自分がどういった世界を作り上げたいのか、ということに漸く思考を向け始めた。
そうあれかし、と願われたままに進む事は悪いことでは無い。過去に実績と経験、知識や慣習といったモノは、研鑽されてきた最善の選択である。
割かし自由な雪蓮とて、積み上げられてきたモノに従っているのだ。
その上で、蓮華は思考を繰り返す。
自分がしたい事は何か。自分が作りたい世界はどんなモノか。自分が命を賭けてでも成し遂げたい事はなんであるのか。
武人ではない王であるが故に、黒麒麟のように兵を率いる事は不可能。
しかし将を率いるのが王なのだから、末端まで行き届かせる必要が無いのも事実。将が兵にまで彼女の想いを届ければいいのだ。
彼女には、『孫呉』の大望では無く、『蓮華』自身の想いを共有してくれる部下が必要であった。
明命も、思春も、亞莎も……皆が自分には心から従ってくれているが、乱世を抜ける為の想いは『孫呉』という受け継がれてきた意思に拠る所が大きく、蓮華だけの願いを叶えようとしているわけでは無かった。
――私の……私だけの想いはなんなの? 姉さまは母さまの遺志を継ぎたいと思っているのは知ってる。私はどうなんだろう。
もやもやと、やぼったい靄が掛かったような心は何かを拒絶しているかのよう。
幾つか疑問を浮かべて、自身の答えを返し続ける。
そこでふいと、一つだけ曖昧な解が浮かび上がる。
――ああ、私は戦をしたくないんだ。母さまや姉さまのように、天下を取ろうとは思えない。
自分達の未来の姿。徐州を守ると言って戦っていた敵を思い出して答えを得た。
侵略せずとも、武力に頼らずとも、平和なモノが手に入るのではないか、と。
――平和を願って戦わないで済むモノがいるのなら、今の命を必要以上に減らしたくない。
想いの種が芽吹いた。
自分自身だけの想いのカタチ。されども、今の姉の方針には逆らうモノ。
ただ、姉の想いは知っている。これ以上奪われない為に天下を統一するとは言っているが、孫呉の地さえあればいいのだと。
――まだはっきりとは分からない。でもこの戦の結果で自分達の居場所を取り戻せたのなら、ゆっくり姉さま達と話してみるのもいいかもしれない。
蓮華はその優しい善性から、守る方を選ぼう
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