二人の姫の叶わぬ願い
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持っている。
それは生真面目な性格から来る、努力を怠らないという一点。
その意味で彼女は白蓮に似ている。違いは生まれついての王か否か、血というカリスマがあるか無いかだけである。
自身の為であれ、誰かの為であれ、才が無いからと折れるで無く、人の期待に応えようと己を磨き上げて行く彼女達は……臣下にとって一番信頼を置きやすい王である。
王から臣下へ、臣下から末端へ、そうやって絆は縦に繋がれて行く。桃香のように横に広げる訳ではないが、蓮華はまさしく絆を繋ぐ王と言えよう。
今回、蓮華はあの黒麒麟との一戦を終えてから信頼関係の深まった三人に指示を与えた。
思春と明命には、建業に向かい籠に囚われた姫君を助け出す事を命じた。隠密部隊の指揮も全てを二人に一任している。
亞莎には、自分の代わりに多数の兵を率いて、ギリギリまで民の欺瞞暴動を引き伸ばさせる事と、袁術軍に対して情報伝達の遅延工作を命じた。
そして彼女自身は黒麒麟と一騎打ちした事を利用して、自らが袁術軍の目を引き付ける囮役となっていた。
袁術軍の紀霊隊は建業にいる。そこから離れた物資管理拠点にて、袁術軍後詰部隊二万のただ中に二千の兵で合流していた。
蓮華が仕掛けたのは仮病という単純な策。通常ならば無理やりにでも連れ出されて扱き使われるモノなのだが……袁術軍には黒麒麟の部隊によって恐怖させられた兵が多く、あんな部隊と戦いたくないと逃げ出した兵や、残った兵達も最前が決死の地獄を思い出して次の戦に怯え、噂は尾ひれがついて広まっていた為に、一騎打ちをした孫呉の姫が心病んでも仕方なし……と、すんなり仮病は成功した。
兵曰く、徐晃隊は狂気の権化にして屍の軍。死に時の笑顔を見たか。あれは我らを一人でも多く死の国へ連れて行ける事を喜んでいるのだ。
狂信は味方に、恐怖は敵に伝播する。練度も志も低い袁術軍の兵には理解出来るはずも無かった。
ただ、蓮華は恐怖に支配される事無く、拠点に設置された仮設天幕の中、妹が無事に救い出される事を願いながら、先の戦の敵を思い出して感嘆のため息を零した。
――姉さまの言っていた事が分かった気がする。自分に必要な存在だと言われて前までは疑問に思っていた謎が解けた。彼の男は兵達の希望の標。充足感からの笑みは忠義の証。乱世を抜ける王とは……命や責だけを秤に乗せてみせなければなり得ないモノに非ず、か。
向けられる信頼も、忠義も……全ては主の作る世界の為。
徐晃隊は個人に対する想いが強く、まるで王に付き従う臣下のようであった。
命を賭けて何かを為さんとする想いは兵の隅々まで持てるものでは無い。それほど兵の心理掌握というのは難しい。
短い間しか見ていない蓮華の目には、徐晃という将はそれだけの影響力を持っているように見えた。
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