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不思議な味
第二章
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第二章

「よかったら案内してくれるかな」
「うん、こっち」
 女の子はそれを聞いてすぐに彼の服の袖を引っ張ってきた。
「お父さんのお店はこっちだよ。すぐに来て」
「あっ、うん」
 女の子の少し強引な動きに戸惑いながらも応える。
 彼女に引っ張られながらも付いて行くとそこは商店街であった。人々が行き交い賑やかな声に満ちている。老いも若きも男も女もそれぞれの目指す方に動きそこには一見無秩序があるがそれでいて秩序もあった。色々な店が並ぶ中で出店が立ち並びいい香りが満ちている。その中の店の一つの前に連れて来られたのであった。
「お父さん、お客さんだよ」
「えっ、お客さん!?」
 アッサムは女の子にこう言われて驚いた声をあげた。
「僕がお客さんだって!?」
「うちの麺を食べたいのよね」
 女の子は驚くアッサムの方に顔を向けて答えてきた。
「だからよ。さあ食べて」
「あの、僕は修行中だから」
 まずはこう断りを入れた。
「お金なんてないんだけれど」
「えっ、そうなの」
 托鉢でお金ではなく食べ物を貰って生きているのである。そもそもアッサムは無欲な性格でありお金を欲したりはしない。出されても受け取らないようにしている。それでお金がある筈もないのである。
「そうだよ。悪いけれどね」
「何だ、がっかり」
「おいナンカ」
 ここで店の方から声がした。
「御前はお坊さんに迷惑かけるんじゃない」
「お父さん」
 女の子はナンカという名前を呼ばれると店の方に顔を向ける。実にせわしない。
「けれど麺に興味があるって言ってるよ」
「お坊さんからお金を貰うわけにいくか」
 どうもその辺りはしっかりした親父さんのようである。声はまだ若いが。
「そこんところは覚えておけよ」
「はい」
「日本軍の軍人さん達ならそれこそ倍ふっかけてもいけるんだがな」
 実は日本軍の軍人達はタイ風の値切り競争には疎かった。疎いというよりはそんなことをするのは恥だと考えていた。だから店の者がどれだけふっかけても支払っていたのだ。それをいいことに多くの者がかなりの値段をふっかけていた。それに気付いても気付かないふりをしなければならない、日本軍も結構大変だったのだ。それを逆手に取るタイ人も見事なまでの強かさであるが。
「もういないからな。いない人達のことは置いておいてだ」
「それでお坊さんにはどうするの?」
「ほら、これだよ」
 ここで一杯の黒いスープの麺を出してきた。具はあえて乗せていない。
「コエチャップですが。どうですか」
「宜しいのですか?」
「安心して下さい、具はどけましたから」
 僧侶である彼に対しての配慮であるのは言うまでもない。親父はそのことをちゃんとわきまえていているようであった。
「どうぞ」
「すいません、それ
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