空き缶
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利根川の土手。少女は川に向かって体育座りをし、顔を伏せていた。
後ろを通り過ぎるオジンやオバンに大学生。小学生くらいの少年少女がトンボを追って駆け抜ける。不思議そうに眺めてみたり、流し目で少女の着ているセーラー服のスカートからのぞく白い足をなめたりする。なかにはうまいこと誑かし、夜の街への同行人となろうと妄想する者もいたりした。
しかし、たとえ隕石が落ちてこようと怪物が現れようと少女には関係のない話だった。
この日少女は、その短い十年足らずの人生で最も重大な事件にあったのだ。
学校のホームルーム後、友人達と談笑をしながら教室の掃除をしていた彼女はゴミを捨てようと教室を出た。しばらくして着いたゴミ捨て場、少女は大きなバケツのようなゴミ箱をゆかに下ろし、さあ捨てるかと意気込んだ。
そのときに見てしまったのだ。人の目から隠れるように、他クラスの女と密会をしている想い人の姿を。その様子は中学生ながら淫靡であり、麻薬のように少女の視覚を魅了した。
しばらくして、少女は我に返ると顔を真っ赤にし、その場を後にした。
友人と別れての帰り道、妖美な魔力から覚めた少女は、今度は悲しみのあまり顔を腫らした。泣いても泣いても止まらぬ涙。やっととまったかと思えば、今度は悲しみのあまりうずくまってしまった。
そろそろ日が暮れるだろうという頃、少女はすっと立ち上がり目元をこすった。
家に着く頃には夜だろうか。急ぐ気にはならなかった。紅く、少しずつ暗くなっていく空を眺めながら歩き出す。さっき枯れたはずの涙がまたこぼれそうになる。
そろそろ家に着くだろうという頃にはすっかり暗くなっていた。今日は雲もない晴天だったので、星がよく見えた。と、視界が揺らぐ。あまりに突然のことだったのでうわ!っと大きな声を上げ後ろに尻から倒れこんでしまった。
体をいたわりつつ起き上がると、目の前には空き缶が転がっていた。りんご100%のジュース。
ところで今夜の夕飯はなんだったろうか。確かカレーだったはずだ。うちは家族全員辛いのは苦手なので、市販のルーにすったりんご入れる。
そんなことを考えていると、少女は無性におなかがすいてきた。既に時計の短針は8の字に差し掛かるところであった。母に怒られるかもしれない。しかしそれはそうと腹がすいたのだ。
少女は星空の下、勢いよく駆け出した。
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