終焉
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朝の五時、目覚まし時計のけたたましい音とともに私は目を覚ました。目覚ましはアラームが二つ付いているというもので、朝を受け入れるのに億劫になりがちな私のため、娘が誕生日に買ってくれたものだ。
いまだ夢の世界から帰りきらない意識で、なんとか体を引きづり部屋から出てリビングへ続く階段を下りる。階段はキシキシと音を立て、この家で活動中の生き物が自分のみであることを暗示する。
いや、そうではなかったようだ。リビングの戸を開けると、そこには飼い猫がちょこんと座り、人を待っていた。どうやら腹が空いたらしい。
冷蔵庫からコーヒーと猫缶を出し、コーヒーをレンジで温めながら猫の餌を用意する。猫缶半分と乾物35グラム。餌を夢中で貪る背中を眺めているうちにレンジから高い音が上がる。コーヒーを持ってソファに移動する。そこが私のいつもの場所であった。とくに決めたわけでもなく、結婚生活30年のうちにいつの間にかそうなっていた。
コーヒーを啜りながら新聞を開きテレビをつける。しかしテレビは何も映らず、ただ暗い画面の中に私を写すだけであった。そんなことは分かっていたが仕方ない、習慣なのだから。
一月ぶりに開く新聞は、一面を使い戦争を取り上げていた。「他に道はなかったのか」「なぜこのような選択をしたのか」「人、一人の価値」。ペラペラとめくっていき、3分も経たずに床に放り出す。一度読んだ新聞つまらないものだが、それ以上にそこから得られる情報は私にとって意味をなさなかったからだ。
六時半、会社に遅刻する時間だ。一瞬焦るが、全く意味のないことなのだと思い出す。なぜなら、あと五時間で世界は終わるからだ。
一年程前、世界に悪魔が降り立った。悪魔は人類の殲滅を宣言し、人類はそれに対抗した。激しい闘いの末、悪魔をあと一歩のところまで追い詰めたのが、つい一月前のことだった。しかし、悪魔は地球防衛の総司令である男の妻を人質にとり、投降を要求したのだ。総司令はそれに応じた。結果、世界が滅ぶ運命となったわけであった。
最初こそ暴動もあったが、今はもうそれどころではないのだろう、静かなものである。泣く者、笑う者、無気力に倒れる者や、自ら命を断つ者、そして神に祈りを捧げる者。私の妻も、隣の部屋で薬物中毒で昨夜のうちに別れを告げている。
自分でも何故死ぬとわかっていながらまだ生きているのかわからない。そして、きっと答えが出ることもないのだろう。
静かな部屋に電話の呼び出し音が鳴り響く。こんな時に誰なのか?少し驚き、その自分に苦笑する。無視してもいいが、ここは出てみることにした。
「はい広瀬ですが、どなたでしょうか」
「おお!たくちゃん!久しぶりだな」
右手に握った受話器が元気で懐かしい声を響かせた。
「もしかして竜司か?本当に久しぶりだな」
「あと五時間で世界が終わる
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