参ノ巻
死んでたまるかぁ!
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とがあった気がする。悲しくて、悲しくて…。
「…桜は好きなんじゃねェのか?」
惟伎高の言葉で、あたしは現実に立ち返った。
いつの間にか閉じていた瞳を薄く開け、ぽつりと言う。
「好きよ、すき…」
「ならなぜ泣く?そんなにも悲しそうに。おまえを見ていると、とてもじゃねェがそうは思えねェ。帰るか?」
あたしは首を振った。
「惟伎高、抹。ひとりに、して。ちょっとでいいから、ひとりになりたいの…」
「嫌だ」
「えっ!?」
まさか断られるとは思わず、あたしは顔を上げた。
「一人で泣くな」
惟伎高は、思いがけず優しい声でそう言った。
再び盛り上がってきた涙を隠すために、あたしはまた下を向いた。
惟伎高…ばかね、あたしがひとりにしてって言ってるのよ。あたしが、言っているのに…。
泣かせてよ、ひとりで。
「先に帰っててもいいのよ」
「おいおい、馬鹿言うな。抹が持ってるモンはなンだ?」
わざと戯けたように惟伎高が言って、あたしは今日の目的を思い出してぷっと笑ってしまった。
「…そうね、そうだったわね。朝からあんな四苦八苦したのに、何にもしないで帰ったらお弁当サマに怒られるわよね。しんみりさせちゃってごめんなさい。食べましょっか」
あたしは袖で涙をぐいと拭うとにっこり笑った。惟伎高はあたしの頭をくしゃくしゃと撫で、抹はあからさまにほっとした顔をした。
漆塗りの弁当を開ければ、ぴっちり俵型に握られたものと、形も大きさもてんでバラバラな頓食が所狭しと詰められていた。ちなみに香物と竹筒の水も持ってきている。
三人で、手頃な桜の下に座って、いただきますと手を合わせる。
「お、うまいうまい」
惟伎高は豪快に一番大きい頓食を頬張っている。
「味はね。あたしがしたから。味は、ね!」
「ピィ!おまえ抹が握ったもンだけじゃなくて俺のも食えよ」
「何言ってんの、ちゃんと食べてるでしょ!?食べてるけどあんたの掴んだ端から崩れるし、やたらでかいし、食べづらいのよ!もう!」
「そォかァ?こんぐれェでけェ方が食った気がするだろ、なァ抹?」
「あっ、は、はい」
「いいのよ抹、気つかわなくて。まぁ、あの地獄からの使者みたいな料理を生み出してたのに比べたら、食べ物にはなってるし…余計な物混ぜ込んでないし…及第点はあげてもいいかもしれないわ。あくまでお米握っただけ
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