参ノ巻
死んでたまるかぁ!
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いかと思うぐらいに、乳白色が滲んだ光景は全てを塗りつぶしていく。
きれい…。
「ピィ」
遠くの方から、あたしを呼ぶ惟伎高の声がして、自分が桜に見惚れて立ち止っていたことに気付いた。
既にあたしを置いて先を歩いていた抹と惟伎高が戻ってくる。
「どうした、疲れたか?」
「ううん。ただ…桜が…きれいだと、そう、思って…」
あたしは再び桜に目をやりながらそう言った。
何で、声が詰まるんだろう…。泣きだす前みたいに。今、なにも悲しいことなんて起こっていないはずなのに…。
「尼君様…」
抹の声がして、手を握られた。なによ、惟伎高…と言おうとしたらなんとあたしの手を握っているのは抹だった。抹が、自分から、あたしに触れるなんて!青天の霹靂だ。必死であたしの手を掴んでいる抹の顔は真っ赤だったけど、どうやらあたしを慰めようとしていることが伝わってきた。
慰める…またあたし情けない顔してんのかな。抹がこんなことしてくれる程に。
その疑問はすぐ解けた。惟伎高が結構遠慮無く、あたしの頭に腕をまわし自分の胸に引き寄せた。なにするのよ…と藻掻いた時に気がついた。墨染めの色を変えながら染みこむ雫。あれ、あたし、泣いてる…。
そっか、情けない顔どころか、桜を見ながら泣いていたのか、あたし。自覚もなく。そりゃあ抹も心配する。
「…ここにいろ」
惟伎高が低い声でそう言った。
不覚にもあたしはそれにどきりとしてしまった。
いやいやいやいや。
惟伎高ごときに動揺するなんて、しっかりしろ、あたし!
「なに、それ」
心の乱れを誤魔化すように、あたしはわざと突っ慳貪に言った。
しかし惟伎高はあたしのその言葉には反応せず、幼子にするようにぽんぽんと優しく背中を叩いてくれた。
違うのよ、なんかあたし泣いちゃってるみたいだけど、別にそれは自分の意思で泣いているとかそういうことじゃなくて。なんだか勝手に涙が流れていたと言いますか。だから別にあたしは全然大丈夫なんだけども。
心の中でぐだぐだ言い訳をしていたけど、真剣に心配してくれている二人に悪くて、口には出さなかった。でも抹や惟伎高が思うほど、あたし悲しんでないのよ。ほんとよ。
だけど…理性とは違うところで心が叫ぶ。切ないと。桜は悲しい。美しくて、悲しい。
額を押しつけている惟伎高の墨染め、香の匂い…。ああ、いやだな…。墨染めと、桜。身を切られるほど、悲しいこ
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