暁 〜小説投稿サイト〜
Shangri-La...
第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
20.July・Night:『The Jabberwock』
[18/22]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話

 響いた男の声は、仲間のもの。少し離れたビルの屋上で、狙撃用にスコープを搭載したライフルを構えた、同じくスーツの眼鏡の男の声である。

『すっぽかされたか、はたまた……何にしろ、ここに長居は無用だな。この取引がリークされて、始末屋(スイーパー)が雇われたって噂もある』

 そしてまたも聞こえてきた男の声は、別の仲間のもの。回されたキーにより、車のヘッドライトが輝いた先に立つ、ジェラルミンケースを持つ……やはりスーツの男だ。

「くわばらくわばら。しかし、影も形もない相手にそんなに警戒しなくても――――」

 車のハンドルに左手を掛けた男はバックミラーやドアミラーを確認しながら、ギアをニュートラルからローへ。恐れをなしたのだろう取引相手を嘲笑いながら、クラッチを緩やかに離しながら加速しようとして――――

『――――あら、いるじゃない。貴男の直ぐト・ナ・リ』
「――――ッ?! だ、誰だお前!」

 携帯電話から漏れた、嘲るような女の声。何処からかジャックされたと思しき、想定外の声に、思わずエンストさせてしまう。

『おい、なんだ今の声は!』
『くそッ! 何処に!』

 気付いた外の二人が、殺気立つ。その合間にも。

『ほぉら、よぉく見てごらんなさいな。ああ、窓に! 窓に! アハハハハハ……!』
「窓――――?」

 声の言うまま、男達は直ぐ近くの窓を見る。ジュラルミンケースの男は背後のビル、狙撃手の男は対面のビル、車の男は運転席のドアガラスを見遣る。そこで――――

『――――ニャ〜ゴ』
「な――――」

 見た。見てしまった。車の男は漆黒の虚空に浮かぶ埋め火のような紅の縁取を、人を小馬鹿にしたチェシャ猫の笑顔を。『()()()()()()』を浮かべた、黒豹を。
 そしてもう一つ……ガラスに、暗闇に紛れて見えない黒豹の手の肉球の跡が、ぺたりと付く様を。


………………
…………
……


「い――――ギャァァァァァァァァッ!!!!!!!」

 刹那、男達の耳のインカムに響いた絶叫。いや、それはもう断末魔か。常人ならば狂気や恐慌を来しても余りあるような、仲間の断末魔。

 見れば、車の男が――――車ごと、球形に圧されている。手足だけが外に晒された状態で藻掻く、実にナンセンスでグロテスクな、ユーモラスな姿の……鼠のような、悪夢めいた機械の獣に。
 その周りには、他に二つ。同じくらいのサイズの、鉛色の卵。ヒビの入った二つの卵が、孵ろうとしている。

「チッ――――おい、彼処(あそこ)だ! あの、イカれた猫野郎を撃て!」
『猫――――』

 しかして、彼等とてプロである。仲間の死くらいならば、今までにも無かった訳ではない。
 瞬時
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ