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Shangri-La...
第一部 学園都市篇
第2章 幻想御手事件
20.July・Night:『The Jabberwock』
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電源を落とした私物ではなく、仕事用の支給品。
 これに掛けてくるのは、説明ではただ一人。

「……はい、もしもし」

 切れてしまう前に、応答する。寝起きの頭は未だ、霞がかったよう。
 そんな耳に、届いたのは――――

『予定時刻、午後七時三十分。第七学区、駅前広場』

 まだ若いが、どこか機械的な抑揚の少ない少女の声で。

『スリーピースのスーツにロングコート姿で、超目立つ事をして待って下さい』

 一方的に告げて、切れた。まるで、誘拐犯の身代金の受け渡しの指定のようだ。
 格好の指定は、確かに目立つ。真夏にスリーピースのスーツでロングコートなど、狂気の沙汰である。

「――まぁ、三十分で用意するのは……普通なら無理だ。要するに、何処まで甲斐性があるかを計る為、か」

 そう言う事だろうと結論付け、懐から取り出した……くしゃくしゃの煙草を銜える。

「第一関門って訳か。上等だ、男子の本気を見せてやるよ」

 これを乾かしたものと同じ――――錬金術で、何とかしようと。紫煙を燻らせつつ。全身の血管を巡るニコチンとタールの、燃え立つような刺激に頭を震わせて。
 近くに古着屋はあったかな、と思考を働かせた……。


………………
…………
……


 噴水の縁に腰を下ろす。懐中時計――――錬金術で『輝く捻れ双角錐』を中心に嵌め込んだ鈍い金色の懐中時計で確認したところ、現在時刻は午後七時二十分。予定よりも少し早い、理想的な時間に到着した。
 黒で統一した、シックなスーツとコート。経費で落とすべく領収証を切ったものを、体に合うように錬金術で調整したものだ。因みに、髪は予め用意していたヘアカラーで黒に染め、ワックスで逆立てるように固めてある。瞳も、予め用意していたカラーコンタクトで黒に。『暗部潜入の為に用意した別人』への変装、である。

 持ち物も、先に述べたように銀箱は懐中時計に仕込み、兎足はネクタイピンに変えてある。

――しかし、やっぱり暑いわ、コレは……。

 錬金術で『熱量』を発散している事で耐えられてはいるが、やはり暑いものは暑い。ちょっとだけ、原理を利用した飾利の『定温保存(サーマルハンド)』が羨ましくなったのは内緒だ。

 周りを見れば、こちらを見る通行人もしばしば。まぁ、どう見ても一昔前の英国紳士の格好だ。加えて、暗部との接触という久々の仕事(ビズ)に緊張しているので、尚更に。
 落ち着こうと、煙草を銜える。買い直した、少し高めの缶ケース入り舶来品。いつもよりも強い香気に、僅かに緊張が和らぎ……何と無しに、夜空を見上げた。

 視線の先には、黄金の月。僅かに欠けた、猫の瞳のようにも見える楕円の月。
 吐き出した煙が、虚空に消えていく。まるで、初めから存在してい
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