暁 〜小説投稿サイト〜
或る皇国将校の回想録
第一部北領戦役
第八話 川は深く・対岸は遠く
[4/5]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
兵站を崩壊させています。
それに予備隊の投入は漆原の為でもあります。それになにより――」
 ――戦場で迷いを抱くものは血に酔わせるか戦死させてやるべきです。
 そう言って新城は――笑った。
 ――厭な笑顔だ。こいつの、この顔は、嫌いだ。



二月二十日 午前十三刻 独立捜索剣虎兵第十一大隊防御陣地 丘陵頂点付近
独立捜索剣虎兵第十一大隊 首席幕僚 新城直衛大尉 


 晴れわたった平野には閲兵されるかの様に整然と大軍が向かって来る。
 近衛工兵達も今朝、北美名津へと発つ際に誰もが彼らに内地の者に宛てた手紙を渡していた。
 ――あの大軍が相手だ。何人生きて帰れるのやら。
「おうおう、ゾロゾロと、戦いは数だよ。兄貴ってヤツか?」
 声をあげた大隊長は冷や汗を流しながらも無理矢理、唇を捻じ曲げている。
 ――随分と指揮官らしくなったものだ。

「圧倒的ですな。敵軍は。一度でいいからあんな立派な軍隊を率いてみたいものです」
――我が軍だろじゃないのな。と大隊長が毒づく。

「敵は八千はいますな。糧秣は不足しておらんのでしょうか」
猪口曹長が思わず疑問の声をあげる。

「「不足しているとも、勿論」」
偶然か、豊久と同時に声をあげてしまった。

気まずそうに手をひらひらと振りながら豊久が言葉を続ける。
「まぁ・・・後方は凄まじい事になっているだろうねぇ」

「追撃戦の通例通り、此処で消耗したら後がないでしょう」
 ――後方の鎮台に真っ当な評価(過大評価だが)をしているから無理をしたのだろう。
 ――ならば此処で消耗させる。

「それで、どうなさるのですか?」
 猪口が確認の言葉を出す

「勿論、此処で粘るさ。此処は防御戦には理想的な土地だ。
正面から馬鹿正直に戦争するなら二刻も保たないが。
此処ならば上手く戦れば何とかなるさ」
 馬堂少佐が答える。

「橋はどうします?いつでも爆破出来るようにしておりますが。」

「――そうだな。これ以上近寄られる前に爆破するか。」
 工兵が作業していた場所へ目を向けようとする。

「いえ、まだです。向こうが渡らせる最中まで待ちましょう。」
 ――まだ早いぞ、豊久。

「危険じゃないか?」
「ですがあまり早く吹き飛ばすと他の手を考えられて面倒になります。」
 馬堂少佐が目蓋を揉みながら考え込む。
「だがな、それ程露骨な罠にかかるか?
敵だって馬鹿ではない、此方が時間稼ぎに徹している事だって理解している筈だ。
ならば確実に行える内に爆破させた方が安全だろう」
 反論は豊久らしい無用な賭けを避ける物だった。
 ――少なくとも理性的ではある事に少し安堵した。
「勿論、だが向こうも余裕が無いのです。
優先的な補給は受けていて
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ