第三章
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第三章
「それだけではなくてな」
「まだあるのですか」
「戦に負けた家の者がな、歌を謡ったのじゃ」
「それでどうしたのですか?」
家臣達は義隆に問う。歌に関わりがあるとなると彼等も顔を変える。
「それで許したそうじゃ」
「ほほう」
「それはまた風流な」
「今川は話がわかっておるわ」
義隆はそう話して目を綻ばさせる。
「わしはそう思ったのじゃ」
「確かにそうですな」
浜田も家臣達も主の言葉に頷く。
「よい話です」
「わしは流石にそこまではいかぬ」
義隆は述べる。
「髷も眉もこのままで気に入っておるしな」
「左様ですか」
「しかしじゃ」
家臣達に述べたうえで再度語る。
「歌については負けぬぞ」
「そうですな」
「我等も今川の家中の者達には負けていられませぬ」
皆そう述べ合う。その顔は真剣なものであった。
「ではのう」
義隆はまた浜田に顔を向けてきた。
「もう一つ。思い浮かぶか?」
「宜しいですか?」
「だから声をかけておるのじゃ」
義隆は浜田に対して笑みを向けてきた。見れば周りの者達も彼に顔を向けてきている。誰もが浜田の歌を願っていたのだ。
「困ったのう」
浜田はそう呟いた。そのうえでおたけに目をやる。
「こんなことになるとは」
「大丈夫です」
おたけは今まで通り優しい笑みを浮かべて彼に応える。
「歌は自然に出て来ますから」
「自然にか」
「はい」
にこりと笑っている。しかしその笑みは彼にしか見えない。
「ですから。御安心下さい」
「よいのか?」
「では一つ」
おたけは語りはじめた。それは次のような歌であった。
ゆく水の 帰らぬ今日を 惜しめただ 若きも年は 止まらぬものを
「これでどうでしょうか」
謡い終えて夫に顔を向ける。夫に自分の歌を謡うように述べてきたのであった。
「よいのじゃな、その歌で」
「はい、どうぞ」
おたけは答える。これで話は決まった。
「殿」
浜田は義隆に応える。そこで今おたけが詠んだ歌を謡うのであった。
謡い終えてから義隆に目を向ける。歌の加減を問うているのだ。
「うむ、これまたよい歌じゃ」
「左様ですか」
「うむ。しかしじゃ」
義隆はあることに気付いた。それを浜田に問う。
「この歌は何処か癖があるのう」
「癖がですか」
「御主の歌は今まで何度も聴いておる」
彼は言う。言いながら今まで彼が聴いてきた浜田の歌を頭の中で思い出していた。
「しかしじゃ。今の二つの歌は違う」
「違うと申されますか」
「そうじゃ。これは」
考えながらさらに述べる。
「おなごの歌の感じがする。どうかのう」
そこで今様が聴こえてきた。皆その今様に耳を凝らす。
「むっ」
「これは」
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