番外12話『約束の時』
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な隙だった。
あってはならない隙だった。
だから、気づいたときにはもう遅い。
振り返った瞬間、それは腹部に到達していた。
「――げ」
鮮血が弾けた。
あらゆるものを一撃で切断するであろう宝刀。それを腹部に、しかもモロに直撃して無事でいられる人間がいるはずがない。
「……っ゛」
咳き込み、腹からだけでなく口からも大量の血がこぼれる。
ぱっくりと開いてしまったであろう腹を両腕で抑えたまま、ハントの膝が地についた。
「穴掘りジジイが気になったか?」
流砂の向こう側からのクロコダイルの言葉には、ハントは反応しない。
――まだ、だ。
ゆっくりと立ち上がり、そして「ふーっ」と大きく息を吐き出して、またクロコダイルへと背を向けた。まるで自殺願望すら窺えるような無謀な行為に「なに?」と、さすがのクロコダイルも意味がわからずに首を傾げた。
「……」
それでも一応は警戒してハントの様子を見つめるクロコダイルに背を向けたまま、ハントが足を漕ぎだした。
もちろん標的は――
「……ってめぇ!」
――砂嵐。
クロコダイルが怒りをにじませて「砂漠の宝刀」を放ったと同時、砂嵐へと向けて渾身の血塗れの拳を放た。
「魚人空手陸式……数珠掛紅葉瓦正拳」
若葉瓦正拳と似て非なる技。
拳を濡らしていた血が霧散し、大気中を走り抜けて砂嵐に吸い込まれていく。目に見える若葉瓦正拳との違いはただそれだけだろうか。
あとは見た目に何の変化もない。乾いていた大気がごく少量の血という水分を含んだ。例えそれが人間からすれば少量とはいえない量であっても、大気からすれば少量どころか影響すらないであろう程度の水分量。普通に考えると威力に影響を及ぼすとは考えにく程度の水分量だ。
表情に苦悶を滲ませ、それでもぶれない視線でまっすぐに放たれたそれは、だが確かに先ほどの放たれた若葉瓦正拳とは明らかに違っていた。
既にクロコダイルにも手をつけ難い規模へと成長していた砂嵐がフと歪んだ。かと思えば突如、砂嵐が巻き上げていた全ての砂が風の殻を破って周囲と降り注ぎ、さらには竜巻のように吹き荒れていた風も勢いを失い、ただの乾いた空気へと還っていく。
すなわち――
「……なっ!」
――砂嵐が瓦解した。
クロコダイルが驚き声を漏らしたが、それはただ単に砂嵐が瓦解したから、というわけではない。クロコダイルが砂嵐の瓦解に気をとられたその隙に、ハントはクロコダイルによって寸前に放たれていた『砂漠の宝刀』を避けて、それどころかいつの間にか流砂を飛び越えてクロコダイルへと接近し、赤と黒で彩られた拳を振り下ろそうとしていたからだ。
「魚人空手陸式5千枚瓦正……けんっ!」
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