雪原と花畑
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昔々、あるところに両親を亡くした女の子がいました。
女の子は親戚中をたらい回しにされる頃にはすっかり口が利けなくなってしまいました。
心根の優しい女の子は信じていたのです。
自分が口答えをしなければ、あの人たちに愛されると…。
しかし、その努力の甲斐もなく、終には村外れの森の小屋に一人住む遠縁のおばあさんに預けられてしまいました。
おばあさんはまるで女の子を召使いのように朝から晩まで働かせました。
一日中働いても食事はパン一つだけ、女の子の心は以前にも増して固く閉ざしてしまいました。
ある雪の多く積もった朝のことでした。
おばあさんに村までぶどう酒を買ってくるよう言いつけられ、森の中を一人歩いていると雪原に佇む小鹿と出会いました。
ですが、小鹿の黒い瞳にはこの真っ白で眩しい銀世界も自分さえも映ってはいません。
それはまるで、鏡の中の自分を見ているようでした。
女の子は持っていたパンをちぎり、その場に置いて言いつけ通りぶどう酒を買ってきました。
その次の日も小鹿は昨日と全く同じ場所にいました。
女の子はまた持っていたパンの半分をちぎってその場を去りました。
それから何ヶ月か経ったある春の日、二人の姿は花畑にありました。
ここは女の子のお気に入りの場所でした。
冬から春に季節は移り変わったそこには色とりどりの花が咲き乱れていました。
その中に座ると何本か手折り、花の冠を作りました。
隣で腰を下ろしていた小鹿の頭に被せると、とてもよく似合っていました。
その瞳にはもう絶望は映っていません。
二人の間には言葉は要りませんでした。
互いを信頼し合い、心を通わせるのは最早必然でした。
……ですが、それはもう限界のようです。
身体中からはどんどん血の気が失せ、視界は霞み息をすることさえ苦痛に感じます。
しかし女の子は幸せでした。
こんな自分でも誰かを守ることが出来た、と……。
「私…はっ」
膝から伝わる雪の冷たさは、赤い頭巾の上から頭を抱える彼女のぼやけた視界を戻すのには充分すぎた。
「ルヴァーナ…」
その声に振り返ると、こちらを心配そうな顔で見ているコンラッドと目が合った。
降り積もったそれは既に固く、サッサッと鳴っていたのが今ではザクザクと質を変えている。
おぼつかない足で立ち上がる彼女は差し伸べられた手を取り、どうにか見慣れた視界に辿り着くが、それでもやはり雲の上を歩いているようなふわふわとした感覚が付き纏う。
スカートに付いてしまったシミを気にすることなく、雪に埋もれた花畑を見下ろす
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