志乃「人間って、自分のことだけ」
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前に立つ男から位置をずらし、俺は一生懸命に志乃の姿を探す。あいつが何を目論んでいるのかが分からない。
でも、意味は絶対にある。
俺はそれをさっき学んだばかりだし、何よりあいつは俺より頭がキレる。こんな無駄で危険な事を考えなしでやる筈がない。
そう確信して、俺は前方にいるであろう志乃の姿を捉えようとするのだが、なかなかに狭い通路は男の体躯でだいぶ埋め尽くされ、思うように志乃の顔を窺う事が出来ない。
どうすればあいつの顔が見える?俺は何か使えるものはないか探すべく、視界を交互に見渡す。そして、
「あった……」
俺は、近くに刺又が転がっている事に気付いた。先程男から食らったパンチが原因で手放してしまったものだ。
そして、俺を戦闘不能と判断したと思われる二人が志乃の方に向かって歩いている。つまり、刺又は今、自由の身というわけだ。
そして、目の前の男は志乃の方を向いている。俺なんて視界の外だ。俺はもう戦えないってか。
そんなわけあるか。俺はまだ戦える。
志乃がくれたチャンス、ここで逃すわけにはいかないんだよ。
心中で決心し、俺はバネ仕掛けの玩具のように勢いよく飛び出し、身をかがめながら近くにあった刺又を再び手にする。
俺の動きを感知して瞬発的に動き出した男だったが、もう遅い。
今度はナイフを俺に向けてきた。その動きは確かに素人では無かったが、完全に熟知しているようでも無かった。
俺はU字型の部分の外側を、男のこめかみ辺りに叩き込む。男は小さく呻きながら、何の抵抗もしないままその場に倒れる。さっきの仕返しだ。まだけっこう痛むんだぞ、おい。
そんな俺の動きに、他の奴らは全く気付いていなかった。近くにいた客は見ていたが、敵はもう完全に志乃に向いていた。
これは、いけるかもしれない。
再び溢れてきた余裕と妹と無事に帰還する希望を胸に、俺は刺又を構え直して再び走り出した。
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