志乃「人間って、自分のことだけ」
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俺の頬にぶち当たる。その時、俺は鈍器で殴られたような重みを感じた。脳が強制的に揺さぶられ、軽い脳震盪を起こす。目がチカチカして、風景がぼんやりした。
俺は刺又から手を放してしまい、同時に身体が後ろに倒れる。三発目を食らったのだ。
「ま、お前を殺すと問題になるからよ、金だけ頂くぜ」
そう言いながら、男は近づいてくる。俺は殴られた反動で動きが鈍くなっている。くそっ、金は渡さない!
「……やれるかよ」
「あぁ?」
「俺はケチなんだよ、金やれるわけがねぇだろ!」
「この期に及んで減らず口を……お前、M気質か」
呆れた顔をしながら男はこちらに向かってくる。だが、俺は屈しない。ここで大人しく金を渡せるか。
そして、男が倒れた俺の股間に蹴りを入れようとし、俺が身体を丸めた時だった。
「人間って、自分のことだけ」
そんな声が、室内にいる者の耳に入り込む。次いで、溜息が聞こえた。
その声に、俺は殴られる直前に感じた寒気以上のものを感じた。まさか、この声は……
「それと、兄貴弱すぎ」
俺は知っている。
普段はあまり喋らないわりに毒舌で、そのくせ他人とどこかがずれているそいつのことを。
いつも首元にヘッドフォンを提げた、おさげの髪が特徴の小柄な少女。一見すると大人しそうで儚げな雰囲気を醸し出す美少女だが、実際は俺以上に胆の据わった、俺の妹。
志乃はグループの男数人に囲まれながら、なおも口を開く。
繊細な人差し指を、文字通り人に向けて指しながら、
「警察呼んだから。兄貴、時間稼ぎありがとう」
と、無表情のまま言った。
*****
「な……」
警察という言葉に、室内の人間達はそれぞれ違う感情を滲ませた。
縄で縛られた人や金を取られた人は安堵し、取り押さえられた店員は思わぬ展開に目を見開いた。
俺自身、志乃の言っている事に頭の中が白くなった。警察を呼んだ?いつ?どうやって?俺が取り押さえられた間に、何があった?
俺は立ち上がるものの、三人の男のせいで志乃の様子が見れない。つか、目の前のおっさんが凄い形相しててびっくりした。この人、怒ってんじゃん。
そして、三人は一斉に俺から志乃の方へと視線を変え、刺又を掴んでいる一人が低い声を上げる。
「そこの嬢ちゃん、何言ってんだ?俺達には電話の音なんか聞こえなかったぜ」
「そう。なら貴方達の耳はただのお飾りということね」
「話にならねえ」
そう言うと、刺又から手を放した二人は志乃の方へ歩いていく。また、足音が二人以上である事から、俺からの位置では見えない構成員も動いている事が分かる。
俺の
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