志乃「グレートオレンジスクランブル versionAK 最終決戦仕様で」
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の店で買えるじゃん。
それなのに、こいつは曲を聴いてジュース飲んで携帯弄って曲聴いてジュース……を繰り返すのだ。俺の歌う声を無視して。マジで何でお前いるの?っていつも思う。
そこで、一度だけ妹にそれを言ってみた事がある。すると、
――『そんな事も分からない兄貴には鼻にマッチを押し込むべき』
という、俺の質問を完全無視した謎の脅迫を掛けられたので、それ以降は口にしていない。こいつ、マジで精神やべぇ。その辺のチンピラ程度なら物怖じしなさそう。
そんな事を思いながら、俺は今初めて歌った曲を終え、ジュースを一口飲む。ずっと歌っていると喉がジリジリするのは必然的なのだ。
とはいえ、一気に飲み干すと歌ってる最中にトイレに行きたくなる。そのため、ジュースはチビチビ飲んでいる。
全国採点の結果を見る。初めて歌ったにしては高い方だろうか。とはいえ、自分としては低い方だ。
そして、画面が次の曲に移る事を示している時に、後ろから声が聞こえた。
「兄貴は、今の自分の事を他の人に言いたくないの?」
それは、久しぶりにはっきりと聞こえた志乃の声だった。
あまりの唐突さに、そしてその内容に、俺は思わず全身を硬直させる。今後ろを振り向くのは出来なかった。俺という存在が、あいつの目に吸い込まれて消滅してしまうような、そんな感覚が頭によぎったのだ。
それは、今の問いに対する逃避だったのかもしれない。ここであいつの顔を見て偽りの答えを出しても、すぐにバレる。俺の表情をあいつの目から守ったのだ。
それでも、俺は真実も虚実も答えられず、ただ突っ立っている事しか出来なかった。マイクが、不規則になった俺の呼吸音を捉える。そこで俺はマイクの電源を一旦切る。
少し後に曲の前奏が流れ始めるが、今の室内ではBGMと同じようなものだった。
「そう。なら、私が兄貴の事言ったの、不味かったよね」
俺の答えを聞かずに、志乃はそんな事を言い出す。そりゃそうだ。俺が変な目で見られる事に……。
ん?ちょっと待て。
こいつ、それが分かってて言ったのか?まさかの計画的犯行?俺の高校生活ぶち壊すのが目的かお前。
……いや、違う。
その可能性に関しては捨てきれないが、多分違うだろう。
そこで、俺は志乃の方を向く。これ以上背を向けるのは兄貴として情けない。
そして妹の目を見た時、やっぱりな、って思った。
あいつは、嫌がらせでやったんじゃない。すぐ分かった。
だって、妹の目はどこまでも真っ直ぐ俺を射止めていて、そこに嘲笑や悪意といった色は全く描かれていなかったんだから。
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