暁 〜小説投稿サイト〜
その魂に祝福を
魔石の時代
序章
ある家族の肖像
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の間こっちは、燃やされそうになるわ二束三文で叩き売られるはおっさんの下着まみれにされるわで大変だったんだぜ』
「そいつは悪かったな。こっちも色々と事情があったんだ」
 その子は小さく笑って、言った。
「取りあえず感動の再会だ。涙の一つも見せてくれないか?」
 毒づくリブロムの、その眼から、その子は光輝く何かをすくいあげる。
 そして、それをどこかのページに振りかけた。
「これでいい」
 言って、その子は顔の包帯をむしり取った。
 思わず言葉を失った。あれほど酷い火傷が、跡も残さず消え去っている。
 黒髪に、黒い瞳。年の頃なら、精々十歳程度。幼いその顔には、それに似つかわしくない寂寞とした達観があった。そこで初めて実感を得る。なるほど、確かにこの子は妹の相棒だったのだ。この子なら、確かにそれが務まる。
 その子はそのまま残りの包帯をはぎ取る。だが、奇妙な刻印が刻まれた右腕の包帯だけは解かなかった。おそらく、普段から身に着けていたのだろう。
『オレのありがたみが分かったか?』
「ああ、改めて痛感した」
 言い合ってから、その子はこちらに向かって一礼した。
「感謝する。お陰で相棒と……もう一人の相棒と再会できた」
『もう一人? 何だ、誰かいんのか?』
 こちらが何か言う前に、リブロムが言った。
「ああ。今回もまた、大したバカ野郎だよ。女だけどな」
『オマエよりもか?』
「かもな」
『そりゃ性質が悪りぃな。しかもまた女かよ。オマエの女運の悪さも大概だな』
「きっと先代から受け継がれてるんだろ」
 口々に言い合い、その子たちは病室を出て行こうとする。
 待ってくれ! 慌てて呼び止める。渡したかったのはそれではない。妻に手伝ってもらいながら、妹の手紙と短刀を引っ張り出す。
「これは?」
 妹からの手紙だと告げると、その子は困惑したようだった。問いかける様にこちらを見つめてきた。視線だけで読むように促す。
 妹の手紙には、封はされていなかった。それを免罪符に、自分も中身に目を通していた。あるいは、それを望んでいたのかもしれない。
 その手紙には、巻き込んでしまったことへの後悔と、甘えてしまった事への謝罪が書き連ねられていた。
 そう。甘えていたと、妹の手紙には書かれていた。妹の孤独は、彼が癒していたのだ。
 そして、手紙の最後には、こう書かれていた。
『信じてもらえないかもしれないが、愛していたよ。息子として』




 それからしばらくして、ようやく自分は故郷へと帰る事が出来た。もっとも、文字通り死にかけた身だ。家へと帰るにはまだかかる。妻や息子、娘たちにはまだ迷惑をかける事になるだろう。長男など、妙に気負ってしまって日がな一日道場に籠っているらしい。妻の店もようやく軌道に乗り、徐々に忙しくなってし
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