暁 〜小説投稿サイト〜
その魂に祝福を
魔石の時代
序章
ある家族の肖像
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した。気分が余計に陰鬱に傾いていくのを感じる。
 そもそもこんなものと出くわしてしまった時点で、今回の仕事は平穏無事とは言えそうにもない。
『うるせえな。おっさんの下着まみれにされてじっとしてられるかよ』
 勝手に出てくるなと言ったはずだ。告げると、それはそう答えた。
『それより、今日は何人殺ったんだ? 真新しい血の匂いがするぜ』
 殺していない。怪我人の介護をしただけだ。短く吐き捨てると、それをひっつかみタオルやシャツでぐるぐる巻きにする。
『おい! だからもっと丁重に扱えって――いや、待て。この血の匂い……』
 何か言いかけたが、構わず鞄の奥深くにねじ込む。なおも騒ぐそれを鞄ごとクローゼットに放り込んだ。何ならこのまま鞄ごと捨てても構うまい。……もっとも、本当に捨ててしまえば騒ぎになるだろうが。
「あの少年は後で考えるとして……」
 頭痛の種は増える一方だ――思わず吐き捨てそうになった。いつになく攻撃的な気分だった。妹との再会は思った以上に自分に衝撃を与えていたらしい。ため息をつき、頭を冷やしてから呻く。
「この本はどうするかな? まさか持って帰る訳にもいかないだろう」
 そう。今まで騒いでいたのは一冊の本だった。
 ……――
『オイ、そこのオマエ』
 それを手に入れたのは――出くわしたのは、妻への土産を見つくろおうと入った、近くの街の古びた骨董店だった。その片隅、埃をかぶった棚に、それは置かれていた。
『オマエだよオマエ。どこ見てんだ』
 気のせいだと思おうとした。だが、他に誰もいない。それ以外には。
『血の匂いがする。オマエみたいな人間を探してたんだ』
 ぎょろぎょろとして、大きさの違う左右の眼。牙の並ぶ口。おおよそ悪趣味なデザインの本だった。まして、それが言葉を話すなど、悪い夢としか言いようがない。
『決めたぜ。次の持ち主はオマエだ』
 困惑する自分を他所に、それは相棒を探していると言った。
(こんな化け物の相棒……?)
 それは一体どんな狂人だ。それが偽らざる本音だった。
 自分はすでに殺し合いからは手を引いている。そんなものとは関わりたくはない。
 告げるが、結局は根負けした。この本は思った以上に弁が立つ。
 せめてもの慰めは、大した値ではなかったことくらいだろう。
『ったく、どいつもこいつも二束三文で買い叩きやがって』
 紙袋の中で、それが毒づくのが聞こえた。
『これでも昔は、オレを狙って殺し合いまで起こったくらいなんだぜ? まぁ、結局誰にも読みとけなかったけどな! ヒャハハハハハ!』
 それはそんな事を言うが、この本がどこから来たものなのか、店主自身にも分らないらしい。気付いたら店にあったと言っていた。よくもまぁ、今まで捨てられなかったものだ。そう思わずにいられない。
『オレの中身
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