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落ちこぼれの皮をかぶった諜報員
 第14話 再会
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「兄さんって父さん似?」
「たぶん、そうだろうな。そして、お前は母さん似だ。写真でもあればいいんだがな」
「そうか……確かに見てみたいかな」


「色々あって“裏”にきて、母さんがお前を身ごもった。そして、お前を産み、母さんは少しして命を落とした」
「それって……僕が生まれたせいで……」

「いや、多分、母さんは体が限界だったんだ。はっきり言って、当時の“裏”の環境はずっと昔のヨーロッパが幾分かマシになった程度だ。母さんは、あまり体は強い方じゃなかったらしいからな。お前が無事生まれのは運が良かったからだろうな」


「でも……」

自分が生まれてこなければ兄さんは両親と暮らせただろう。



「気にするな。母さんはお前が生まれた時、泣きながら『元気に生まれてきてくれてありがとう』って言っていたんだ。親父も『よく、無事に生まれてきた。(震え声)』って言っていたぞ」
「父さん、また狼狽えていたの?」
「ああ、俺は親父の狼狽え振りに狼狽えたがな」

「母さんが亡くなってからは親父はどこからかきれいな水と粉ミルクを持ってきて、焚火で温めてミルクを作っていたな。そして『どれぐらい熱いか分からん。勇輝、ちょっと飲んで見ろ。弟のためだ』って言われると同時に飲まされて、俺の舌がやられた。あれは熱かったぞ。毎日それの繰り返しだ。親父にたまには自分でやれって提案したが『私は暑い物を飲んだら死んじゃう病だから無理だ』と、訳の分からんことを言っていた」


「なんか……ごめん……」

厳格そうで仏頂面の人が暑い物を飲んだら死んじゃう病って……どうやら、父さんは真面目な顔をしているがおもしろい冗談を言う人のようだ。



「過ぎたことだ。気にすんな」



「でも、父さんはどうしたの?」
「親父は病で亡くなった。咳が酷かったからな、結核とかだろうな。あんなに頑丈な体でも病気には勝てないって事だ」


「そうなんだ……その後は兄さんが一人で僕を……」
「そうだ。そして、あの時の火事で離れ離れになった」
「兄さん。どうやって脱出したの?」
「俺もよく覚えてないんだわ。気づいたら雨の中、目を覚ました。すぐにお前を探したが見つからなかった。あの後どうしたんだ?」
「必死で走ってるうちにまだ誰も居なさそうな建物を見つけたからそこで暮らしたよ。武敏さんに拾われるまでだけどね」
「あん? 武敏? あいつがお前を?」
「うん、知っているの?」
「知っているも何も、俺はあいつの店の常連だからな」
「そうだったんだ」


兄さんとしゃべっている内に夕方になった。


「おっと、そろそろ帰らねえとな。この後立て込んでいてな、先帰るぜ」
「うん。兄さん、ありがとう」
「……どういたしまして」

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