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八百比丘尼
3部分:第三章
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「そうでしたか」 
 私はそれを聞いて目を伏せさせた。
「やはり」
「兄上様とのことで。悩んでおられました」
「らしいですね」
 歴史のままだ。やはり彼はあの道を通っていたのだ。
「あの方に御会いしてから。私はその時の主人に先立たれ。尼になることを決めたのです」
「それは何故」
「私だけが生きているからです」
 彼女も目を伏せていた。
「ただ私だけが生きていても。何もないですから」
「左様ですか」
「そして私は。都に入りました」
「応仁までそこにおられたのですね」
「寺にいましたが。それも」
「戦で逃げられたと」
「そうです。そして小田原にもいましたし江戸にもおりました」
「江戸にいたのは長かったのですね」
「江戸はいい街でした」
 言葉がしみじみとしたものになっていた。
「賑やかで。それでいて綺麗で」
「はい」
「けれど。やはりそこにも無常はありました」
「そうですか」
 これは何処にでもあるのであろうか。私は話を聞きながら思った。
「花魁さん達が」
「彼女達ですか」
 それを聞いてわかった。華の街吉原も一歩歩けば闇が広がっていた。瘡と酒、そして鉛の毒で花魁達の命は短いものだった。昔は白粉に鉛を使っていたのだ。死ぬ者は多かった。
「美しくあっても。すぐに旅立たれて」
「彼岸までですね」
「ええ。私はそういう方々も見てきました」
「あの時はよくあった話ですね」
「そうです。時代が変わっても」
 明治になって東京になっても吉原はあったしそういう街もあった。こうした話は何時の時代にもあるものだ。

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