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八百比丘尼
2部分:第二章
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は観光で来たのですが」
「そうみたいですね」
 尼さんは私の言葉を聞いて応えた。
「わかりますか?」
「ええ、言葉で」
 私はそれを聞いて成程、と思った。標準語を話しているつもりでも訛りは出るものである。さっきの運転手さんがそうであったように。
「関西の方ですよね」
「はい」
 私は素直に頷いた。
「その通りですけれど」
「やっぱり。けれど関西も言葉が少し変わりましたね」
「そうなんですか」
 ここで頼んでいたお茶とお菓子がやって来た。抹茶と蕎麦菓子である。
「昔は。もっと訛りが強かったんですよ」
「そうだったんですか」
 言われても今一つピンとこない。言われてみればそうかも知れないが違うかも知れないとも思った。
「特に京都は」
「はあ」
 余計にわからない。京都にはあまり行かない。だからそう言われてもやはりわからないのだ。
「今の方はかなり訛りが弱くなっていますね」
「いやあ、そうでもないと思いますよ」
 私はお菓子を食べながらそれに応えた。
「よく関西人は訛りが強いって言われますよ」
 これは本当のことだ。広島に九州、それにこの東北も。訛りと言えばこうした地域であろうか。
「それを隠すつもりもありませんしね」
「昔の薩摩の言葉は凄かったですね」
「薩摩?」
「鹿児島のことです」
 尼さんはこう説明してくれた。
「昔はこう呼んでいたので」
「ああ、昔の」
 私はそれを聞いて不思議に思った。そう呼ばれていたのは事実だがそれは本当に大昔である。少なくとも今生きている人間が使う言葉ではなかった。
「ついつい使ってしまいました」
「そうだったのですか」
 頷きはしたが納得出来るものではなかった。違和感を禁じえなかった。
「本当に凄かったんですよ」
「らしいですね」
 それは少しだが聞いたことがある。
「何を話しているのか。わからない位で」
 実際にあえてそうしたらしい。他の国の者が聞いてもわからないようにそんな難解な言葉を作ったらしい。薩摩らしいと言えばらしいか。
「東北も言われますけれどね」
「特に津軽ですよね」
「はい、あそこは特に」
 尼さんはここで遠い目をした。
「あの人も東京で苦労されていましたし」
「あの人?」
「御存知ですか?作家の」
「作家の」
 それを聞いてまさかと思った。
「太宰治ですか?」
「わかりましたか」
「津軽出身の作家といえばあの人ですから」
 すぐにわかった。実家は今でも津軽で政治家をしている。かなりの名家の出身として有名である。かっては厄介者だった太宰も今では家の誇りだという。変われば変わるものである。
「顔立ちがよくて。繊細な人でした」
「らしいですね」
 太宰の顔も人となりも写真や話でよく残っている。太宰は美男子でもあ
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