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八百比丘尼
1部分:第一章
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た。
「それで行きますか?」
「はい」
 私もそれでいいと思った。ここはそれに乗ることにした。
「わかりました。それじゃあ行きますよ」
 運転手さんはそのニヤリとした笑みのままアクセルを踏んだ。そして派手に飛ばしはじめた。
「後ろにシートベルトがありますからね」
「ええ」
 見れば腰のすぐ側にあった。
「それ着けておいて下さい。とにかく飛ばしますんで」
「わかりました」
 私は言われるがままシートベルトを着けた。そして車中の人になった。
 タクシーは山道を進んでいた。やたらと曲がった山道を進んでいく。山の木々も道も雪で真っ白だったが車はそんな雪をものともせず進んでいた。そしてどんどん先に進んでいた。
「こんな雪の中よく飛ばせますね」
「地元ですからね」
 運転手さんはその訛りのある標準語で応えてくれた。
「慣れてますから」
「慣れですか」
「お客さんは何処の人ですか?」
「大阪です」
 私は素直に答えた。
「大阪の住吉の方です」
「ああ、神社のある」
「ええ」
 住吉大社のことである。住吉のことを出すといつもこう言われる。
「あそこには一度だけ行ったことがありますけれどね」
「そうなんですか」
「はい。うちの女房と一緒にね」
 運転手さんは前を向いたままこう応えた。車の運転は相変わらず派手なものであった。
「行ったことがあるんですよ」
「大きいでしょう」
「そうですね、あんな大きい神社はあまりないですね」
「それに橋に驚いたでしょう」
「ああ、あの凄い橋ですね」
「そう、太鼓橋です」
 私は言った。
「あれはあの神社の名物でして」
「らしいですね」
「あそこの橋は何度も登りましたよ」
「地元の特権ってやつですね」
「まあそういうやつですね」
 私は笑いながら言った。
「ここで温泉にいつも入られるのと一緒で」
「ははは、後は美味しいお酒と」
「日本酒がね、本当に美味しいですよね」
「岩手は酒の本場ですから」
 運転手さんは上機嫌になってきていた。どうやらかなりの酒好きであるらしい。
「美味い酒が幾らでもありますよ」
「それと食べ物も」
「食べ物は大阪もいいですよね」
「ふふふ」
 それを言われると思わず笑ってしまった。
「まあ確かに」
 大阪では何と言ってもまずは食べ物である。それを誉められて悪い気はしなかった。
「大阪は特に五月蝿いんですよ」
「らしいですね」
「まずければそれで潰れますから」
 それが大阪だった。あとマナーの悪い店もそうだ。噂話に尾鰭がついてとんでもない話になって客が寄り付かなくなる。そして潰れるのだ。
「シビアですね、また」
「普通そうじゃないんですか?」
「まあ大体ここも同じですけれどね」
「何処もそうでしょうね」

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