盗賊-フーケ-part1/板挟み少年一人
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うことを拒否しているせいだと言った。正直ゼロの周囲を顧みない戦い方は気にさわる。だからかもしれない。でも、結局それが原因で変身しても役立たずに終わったのだ。あの時現れた、銀色のウルトラマンがいなかったら…。そう思うと悔しくて仕方ない。
ふと、サイトは自分の頬にしっとりとしていて柔らかい感触が触れているのを感じた。その正体を知った途端、彼の表情は朱色に染まる。シエスタが、サイトへの感謝の印に、彼の頬に口づけしたのだ。
「じ、じゃあおやすみなさい!」
恥ずかしげに唇を離したシエスタはそのまま寄宿舎へ戻って行った。口づけされた頬に触れたまま、サイトはその場で呆然と立ち尽くしていた。
「へへ、なんでい相棒。役得じゃねえか」
『けっ…人の気も知らないで女といちゃつくとは、いい気なもんだぜ』
デルフのからかいじみた言葉も、ゼロの悪態をつくような言葉も、その時の彼の耳を突き通っただけだった。
地球…。
ハルナはその日、学校の予習も兼ねて図書館に来ていた。そして一つの本を見つけて手に取って題名を読む。題名は『異世界説』。胡散臭い本、といつもの彼女なら思う。だがそれでも彼女は机に座ってその本を読み始めた。好奇心からなのか藁にもすがる想いなのか。
内容は43年も前に空中パトロールで空を飛んでいた二機の対怪獣飛行兵器の内の一機が、日食の中に消えると言う奇妙な内容だった。
『私と彼が日食の光の先に見えた奇妙な穴に飲み込まれた時に見たのは、見たこともない大地だった。建物のつくりはとても私たちの国のモノとは様式が違っていた。上空から見た花畑、あれは私が見たこともなかった美しい花々だった。
そして何より驚いたのは、竜だった。偶然私の隣に、小さな竜が興味深そうに私たちの顔を覗き込みながら横に並んで飛んでいたのだ。日本の屏風に描かれたものというより、西洋人の考えた想像上のドラゴンに近かったが、それでも私は確かに見たのだ!この世の生き物であるはずがなかった、竜を!怪獣というにはとても大人しいものだった。
私は思った。我々は、あの日食の先を行き、異世界にたどり着いたのだと!』
ハルナは、無意識に呟いた。
「異世界…」
文章には、あまりにもファンタジックな単語が使われていたのだ。
公式には任務中で殉職したとされていた。だが、この本を記した人物は、戦友があの日食の中で死んだことを否定していた。引き返す直前に、この本の執筆者はこう記していた。
『できればあの竜と触れ合ってみたかったが、このとき日食が終わろうとしていた。
あの日食が終われば、私たちは帰れなくなる。そう予感した私はすぐ相棒にハンドシグナルで、あの日食に向けてもう一度戻るように知らせ、彼も同じように予感したのか頷いた。
だがそれが私と彼の最後の対話となった
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