暁 〜小説投稿サイト〜
とらっぷ&だんじょん!
第二部 vs.にんげん!
第23話 いのちのねうち!
[3/4]

[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話
ルド!」
 ジェシカだった。飛びこんできた賑やかな気配の後ろにはアッシュが控えている。ひっそりと佇む彼は、いつもの少し困ったような笑みを浮かべていた。全身の火傷は教会で治癒してもらったようだ。
「ウェルドぉ、あんた見直したよ! 何だかんだ冷たい事言いながらバッチリあの憎たらしい柱壊してくれてさ」
「……で、あいつは目ぇさめたのか?」
「うん。ティアラが言うには今すっごく体調悪くて人と会える状態じゃないけどさ、熱が引いたら退院できるってさ」
「ま、普通に考えりゃ免疫ガタ落ちだわな」
 ウェルドはさもくだらなさそうに言った。
「もう一つ知らせがあるんだ」
 今度はアッシュ。
「カルス行きの隊商が明日か明後日にはランツを出るそうなんだ。雪道だから到着までに少し時間がかかるけど、それに合わせて門が開くって」
「そっか、じゃあ俺達そろそろお別れなんだな」
 その言葉に、ウェルドは思わずパスカの顔をまじまじと見た。
「村の借金、もう返せるのか?」
「まあな。でも、せっかくだし最後にもう一稼ぎしてくっかな。金なんてあって困るもんでもねぇしさ」
「おれも少し休んだら行くよ」
 アッシュが言う。
「おれ、妹の病気を治すためにアザレの石を探しに来たけど、この町に来てわかったよ。そんな物、見つからないほうが良いって。それよりさ、もしまた何かあった時、薬を買えるお金を蓄えておいた方がいいと思うんだ」
「お前は?」
 と、ウェルドはジェシカを見る。
「あたし? 出てくわけないでしょ? こんな楽に荒稼ぎできる町!」
「あっそ」
「サラも誘おうぜ。確かあいつも孤児院の経営資金を稼ぎに来たんだよな……」
 迫りくる別れの時。盛り上がる仲間達の隣で、ウェルドは深いため息をついた。

 午後の森の中を、人の列が一直線に貫く。古い街道は難民たちで埋め尽くされていた。
 街道の先には、堅牢な古城が聳えていた。
 古城を改修して開かれた、サンタ・ツリエル教会。
 だがしかし、神の僕たちは、魔物達から逃れてきた難民に門を開く気配を見せない。
「今日もダメなのかしら」
 乳飲み子を抱えた女が、灰色の顔をして呟く。母親の、出もしない乳を求めて泣きわめいていた赤子も、もう閉じた目を開かない。今日中に死ぬだろう、女の隣で、その姑である老女は思った。教会が、自分たちに対して開かれないなら。僅かでも恵みが与えられないなら。
 乳飲み子の首が、がくりと女の腕から落ちて仰け反る。女はそっと腕を動かし、赤子の頭を支えるが、弱り切った我が子の様子を嘆き涙を流す体力すらなかった。
「駄目なんだ」
 同調し、近くの男が呟く。
「もう終わりだ……」
 老女は若い女の肩を抱く。気休めの言葉など何一つ見当たらなかった。
 しっかりおし。
 そう言うべきだろうか
[8]前話 [1] [9] 最後 最初 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ