第六十六話
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つけていた足をどけると、その腹で自分の肩をポンポンと叩いた。その代わりに、包丁を握っていない方の手で俺の頭を掴むと、そのまま握力任せに握りつぶすように力を込めながら、その腕一本で俺の身体を空中に吊るす。俗に言うところのアイアンクロー、というプロレス技だ。
そんな技を喰らってしまっていた俺だったが……指一本、微動だに動かすことは出来なかった。アイアンクローの激痛が、俺の頭蓋骨を襲っているにもかかわらず、だ。その激痛に抵抗するために、身体をじたばたと動かすということすら、今の俺には出来なかった。
その理由は、恐らく奴が先程から吹いていた《鼻歌》――それはただの鼻歌ではなく、奴の種族である《プーカ》の特徴である《呪歌》によるもの。具体的にはプーカのことをあまり調べていないので分からないが、魔法の代わりに歌によって効果を発揮することが出来るとのことだ。
「その十字架はcurseの代わりだ」
奴はアイアンクローを極めながら、その包丁で俺の胸部についた十字傷をもう一度なぞるように切り裂いていく。アイアンクローの分も加えて、断続的に激痛が加えられるが、奴の《呪歌》の為に悲鳴を上げることすら許されない。
そして、奴が俺に言い放ったことは……呪い?
「まだDeath gameは終わっちゃいない。そのことを忘れないようにする呪い、だ」
……古来より十字架という形には、呪いや戒めという意味が持たれている。あの浮遊城のことを忘れるな、あのデスゲームでの出来事を忘れるな――と。奴はそれだけ言うと、アイアンクローを止めて俺の首根っこを掴むと、力任せに俺を橋から天高く川へと放り投げた。奴の口元には笑みが浮かんでおり、遠くに投げ出された俺に最後に一言、その台詞を投げかけた。
――HPが0になった時にどうなるかは、あの彼女で確かめてやるよ――
橋から高く投げられて自由落下中だったが、その台詞だけははっきりと俺の耳に届いた。……もしかすると何か、奴が《呪歌》による細工をしたのかもしれないが。
「――――――!」
言葉にならない俺の叫び声とともに、奴の《呪歌》の効果が解除される。空中に放り投げられたため、自由に動けないのは変わらないが、このまま川に落ちてしまえば水中のボスに食い殺されるだけだ。未だに洞窟内であるために、翼で飛翔することは許されない。
「……っつ……!」
俺は胸部の二重に傷つけられた十字傷に耐えながら、風圧の助けもあって破れた黒いコートを脱ぎ、橋に向かって投擲した。すると、一か八かではあったが、破れたコートが忍者が投げるロープのように、上手いこと橋のパーツに引っかかる。そのままコートが俺の自重で破れないうちに、速やかに橋の上に復帰して――
「ショウキ! 来ちゃダメ!」
――
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