第六十六話
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上げる。そのまま無様にも仰向けに倒れ伏した俺に、奴はさらに胸部の十字架のような傷をグリグリと踏みつける。まさに傷口に塩を塗りたくられたような感触に、たまらず俺は奴の身体に、日本刀《銀ノ月》を突き刺そうとするが、またもやすり抜けていく。ささやかな抵抗すらも無駄だ、というように。
「おっと。そっちのちっこい二人は動くなよ?」
そのまま傷口を踏みつけながら俺のことを見下ろしつつ、その手に持っていた包丁を俺に向ける。そうしてわざとらしく包丁をブラブラと動かし、包丁を目立たせることによって、リズとレコンは俺が踏みつけられていては動けない。『近づくな』と偉そうに言っておいて、まさか足手まといになるとは恥ずかしい限りだが、そんなことを感じている暇はない。
「なぁ銀ノ月。痛そうじゃねぇか」
「……何してやがる」
俺は踏まれながらも奴を睨みつけてはいたが、もはやその程度の抵抗しか出来ていないという方が正しいか。この走る痛みの元凶はPoHが作っている、というのはほぼ間違いなく、奴も隠す気はないのかあっさりとシステムメッセージを表示させる。
PoHが可視化したシステムメッセージには、アインクラッドでも……もちろんこのアルヴヘイムでも見たことのない表示。《Pain absorber LV4》――ペイン・アブソーバーと呼ばれるらしい機能が表示されていた。直訳するならば、『痛みを吸収する装置』であるが、今の状況とは真反対の訳だ。
「effectの程は分かるよな? 実際にpainが走る……」
しかして理屈や理由は分からないが、俺の身体中を襲うこの痛みは、その《ペイン・アブソーバー》とやらの仕業らしい。相手の《アミュスフィア》かプログラムでもハッキングしてるのか、などと考えたものの、そのようなレベルの機械などは門外漢だ。要するに、奴はどこかから痛みを発生させる改造データを用意してきた、ということだけ分かれば良い。
「……その首たたっ斬って、HPを0にしたらどうなると思うよ、ええ?」
PoHが台詞を最後まで言い終わるとともに、適当に振り回していた包丁を俺の首筋にあてがった。痛みを現実世界と同じように感じるということならば、首を斬られれば、そのダメージも――
「……やめて!」
――洞窟に少女の声が木霊する。この橋の上にいる少女は一人……もちろんその声の主はその少女、リズだった。持っているメイスを、こちらまで握り締める音が聞こえそうな程に強く握り、PoHを射殺さんとしているようなリズに対し、PoHも口笛を吹いて俺から包丁を引いた。
「ハッ、怖い怖い。彼女に免じて首ちょんぱは許してやるよ、銀ノ月」
最初から本気で斬ろうとはしていなかったらしく、奴は軽く笑いながら包丁を俺の首筋から離して、同時に俺を踏み
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