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あさきゆめみし―黒子のバスケ―
神様なんか頼らない その一 三年生になったキミへ…
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「えっと、僕は…」


「冷やし汁粉二つ」


「……」


「はいはい。冷やし汁粉二つね」


 そう笑ってまた奥に引っ込んだのを確認してからキッと目の前の彼を睨む。


「僕はまだ何にするか決めていません」


「では、良かったではないか。その手間が省けて」


「そう言う問題ではありません」


「…お前は一々煩いのだよ。一体、どこに不満があるというのだ」


「全部です」


 ぐぬっと、最後に不機嫌な顔をしてそのまま黙ってしまう。

 そもそも、何故自分は緑間(みどりま)とこんな所にいるのだろう。

 別段、この店や今から運ばれてくるであろう冷やし汁粉が気に入らないと言う訳ではない。

 況して、このブツブツと独り言を披露している緑間(みどりま)真太郎(しんたろう)のことが不満だという訳でもない。



 寧ろ…。



「あのっ」


「はいっ!お待たせしました。冷やし汁粉二つね」


「……」


 お盆の上に乗せられてきた二つのガラスの小皿からは当然だが、湯気は立っていない。

 テーブルの端に注文書を置いてまた奥に引っ込む老婆はやはり、笑っていた。

 店にはあまり人気はないが、長年から通い詰めているであろう会社帰りの中年男性や健康の悩みを相談する彼女と同い年くらいであろう二人連れの女性もいる。

 どの客も皆、同じものを頼んでいる所を見ると、どうやらこれは…。



(……もしかして)



 ある考えが浮かびそうになり、思わず首を左右に振る。

 そんなことある訳がない。

 彼にとっては実にありえないことを考えてしまうなんて全くどうかしている。


「食べないのか?」


 心の中で苦笑していると、何の温度差を感じられない声を掛けられ、我に返る。

 やはり、無表情の緑の瞳がこちらを見ていた。


「…いえ、いただきます」



 ……悔しい。



 自分はこんなにも緑間のことで頭がいっぱいなのに、当の本人は至って涼しい顔をしている。

 大体、何故、今日は校門で待ち伏せていたのだろう。

 彼と個人的に約束したことなど一度だってない。

 黒とも赤紫ともとれる見事な色をしたそれは白玉が数個浮かんでいるだけで、これと言った華やかさはない。



(僕と一緒……か)



 そう息を吐いた次の瞬間、匙を傾けた黒子(くろこ)の胸を劈いた。


「この子のことだったのかい。うちの冷やし汁粉を食べさせたいってアンタが言っていたのは」
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