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Eve
第一部
第一章
虚実から現実へ
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れは朱に染まりその身に張り付き、道にも酸化した鈍血を垂れ流す。黄色の脂肪と腹膜がはみ出た腹部の切り口から覗くのは、ウジャウジャと自由自在に蠢き、死肉に腐肉をかっ喰らう大量のウジ。古い死体はすでに眼球の奥から食い抜かれ、風化した白骨を野に曝す。酸性雨に溶け、骨繊維がスカスカの残骸も湿った外気に晒される。
ざっと俺の目に入ってきただけでもまだまだ一切を表現しきれない。こんなもんじゃ済まないほどの屍が転がる通り。まだ死の鋭き眼光から逃れ生きている人間も痩せこけたその身を地に横たえ、はたまた地面に座り込み動くことはほとんどない。小さな焚き火から暖を取る人間は、さながら床に散らばるゴミのカスのごとく無数に。それなのにも関わらず、普通に歩いている人間は数えるほどしかいない。
活気という言葉など、ここには存在しない言葉。存在してはいけない。もうその言葉の真意をこの世界が取り戻すことは、きっとない……。
「……」
歩調を緩めてちょいと上を見上げれば、大量の排ガスや微粒子レベルの産業廃棄物が織りなす、太陽の光すら通さぬほどの分厚いスモッグが空を覆う。黒に近い黄土色のスモッグの若干薄い層からは、僅かながら黄土色のフィルターを通した陽光が漏れるが、それも僅か。昼なのに世界はどんよりとした暗さに包まれている。この世界を如実に表しているかのような空。一度雨が降れば、高濃度のスモッグを通過した雨は様々な物質が溶け合い、強烈な酸性雨となって人々や動物、建物、外気に晒す物質全てを襲う。少しでも逃げ遅れ、数分の間だけでも酸性雨の直撃を喰らおうものならば、雨に濡れたところの表皮はめくり上がり、真皮から皮下組織までは真っ赤に焼けただれ血が滲み、強烈な焼けるような、アイスピックを躊躇もなく突き刺すような痛みに藻掻きつつやがて感染症からの死が待つ。万が一にでも目に入ったものならば、その目はもう使い物にならなくなる。硫酸の雨、とでも呼んだほうがしっくり来るかもしれない。
視線を少しだけ下げれば、まだ街の民衆たちに活気が残っていた頃、そんな酸性雨を凌ぐために軒並み急ピッチで建築された、大通りに面して巨壁のように連立する住居群がその目に留まる。大小様々な小部屋が突起物のように全体の構造物から突出する後作りの構造。日を増すごとに形状は歪になっていくが、今や木製の部屋ばかりで、酸性雨を完全に防ぐことができるようなものではなくなっていた。というのも、俺の部屋のようなトタン製の材質で部屋を作れる人はもういなくなってしまった。材料が枯渇してしまった上に加工できる職人はもうほとんどがいないのではどうすることだってできない。もう、構造物自体を増やすことはできないし、小部屋を付け加えることもそろそろ限界を迎えている。
何もかもがギリギリ。いや、いくつかはきっともうアウトだ。
……正直なところ、この世界。とい
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