暁 〜小説投稿サイト〜
Eve
第一部
第一章
虚実から現実へ
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な腕に張り付く皮と、盛り上がるようにして浮き出る細々とした骨のライン。その腕にも腹にも脹脛にも頬にだって、肉と呼べるような膨らみはもう彼らにはついていない。その瞳に映る俺の姿の奥に見える真っ黒い影に、彼らの生気の欠片すらも見当たらないのは希望を見失ってしまったから……。
くそ……ここにいると、もう何がなんだかよく分からなくなってくる……。現実の世界と虚実の世界。二つの世界を知っている俺にとっちゃ、最早こちらの世界が虚実の世界だ……。
緑の自然と真っ青な空。鳥たちは人の傍でその生を謳歌し、そよぐ涼風に香るのは青々とした若草の涼やかな香り。そして人と人との交わりが初々しく、人と人との触れ合いが幸福で……そんな美に溢れた生の息吹を感じられるような世界が、俺にとっての現実世界。俺の夢の中の世界。自我が花開く夢の世界だ。
……こんなドス黒く汚物に塗れた世界のどこに、人が求める理想があるってんだ。
虚実の世界への憧れは、このリアルに触れる度に強くなっていく一方で、俺の心は俺の夢に触れたあの日あの時から、言うまでもなく虚実の世界の虜だった。
こんな荒廃した世界に何がある。人口の大半が不衛生の産物に侵され、一年足らずのうちに死に絶えた。一部の生き残った人間さえも、貧富の差で全てを隔絶した。一握りの上流階級に属される人間だけがその生を謳歌し支配する、賎陋に賎劣を重ねた糞だけが優越に浸るどこまでも糞な世界の……俺たちのような貧賎で下等な生物には、どこまでも攻撃的で慈悲の欠片も与えない、病原菌の感染から栄養失調。全てが死に直結するだけのこんな世界のどこに生きる価値を見いだせる!?。糞で糞で糞で糞で糞な世界だッ!!糞以外の何物でもないッ!!
「ッ!!」
俺は無意識のうちに強い憤怒が口をついて出ていた。ついでに俺の歩調の一歩一歩に力がこもっていることにも……。
日頃から蓄積され続けてきた、この世界への鬱憤……いや、この世界に対してじゃあない。下等階級の人種のすべてを見放した、上流階級と呼ばれる、彼らの主観的な尺度を持って非民主的な決定のもとで選ばれた屑の中の屑人間に対してだ!
俺の拳は硬く硬く握られていく。
……くそったれめ!この荒ぶる俺の怒りの矛先はどこへ向ければいい!!
俺の歩調は自然と早くなっていく。階段に群がる生きた屍を避けることすら煩わしくなってきてしまうほどに俺の心は荒れているのがわかる。必死に抑えようとするけれども、ダメだ。俺の心は全くと言っていいほど落ち着かない。生きる屍に向けることはできないこの怒りも、行く宛を失い俺の心のなかで八岐にも分かれそうな大蛇の如く暴れ狂う。
そんな調子のまま、必死に平静を取り繕う。
……暴れたってなにもいいことはない。俺がここでブチ切れて暴れまわったとしても、それが賎陋な連中の耳に留まることすらない。もはや連中に
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