第一章
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第一章
絶対の正義
最初に気付いたのは実に些細なことであった。
新入社員の交友を深める為の飲み会でのことだった。居酒屋に集まった一同はそれぞれ自己紹介をするのだった。それは男女一緒であった。
「それじゃあ次は」
「俺かな」
程よく上がった短い眉に横を短くした量の多さが目立つ黒い髪を持つ小さな目の青年だった。背はわりかし大きい。その彼の番になったのだ。
「ええと、俺はね」
「小笠原君だったっけ」
「そうだよ、小笠原祐次」
同じく新人のOLの問いに対してこう名乗るのだった。声は朗々としたものである。
「総務部に配属になったんだ、宜しく」
「総務部なんだ」
「うん、何かあったら何時でも読んで」
明るい顔で述べた言葉だった。
「何でもやらせてもらうから」
「趣味は?」
「ゴルフとテニス」
実に明るい趣味であった。スポーツマンなのはその雰囲気からもある程度わかるものだった。
「後は音楽はロックかな」
「出身は?」
「東京だよ」
つまりここだというのである。
「大学は早稲田でね。文学部だったんだ」
「文学部なの」
「太宰治を研究していてね」
こう気さくに話していくのだった。明るく屈託のない様子で。居酒屋の中での歓迎会は実に雰囲気よく進んでいた。
「人間失格とかね」
「文学にも詳しいんだな」
「そうでもないよ」
同期の言葉に少し笑って謙遜の言葉も述べた。
「別にさ」
「それで高校は?」
一人の何気ない質問だった。しかしこれが異変のはじまりだった。
小笠原はまずはその言葉を詰まらせてしまった。一瞬だったが身動きも止めた。そうしてそれから何か考える目をしてからそれまでとはうって変わって小さな声で答えるのだった。
「修和高校だよ」
「おいおい、すげえな」
「超進学校じゃない」
この学校は都内でも有数の私立進学校である。男子校でありその校則も厳しく軍隊の様だとも言われている学校である。その校名を聞いて皆言うのだった。
「それもお金持ちの行く」
「凄いところ出てるのね」
「ま、まあね」
ここでやっと自慢らしきものを見せてきた小笠原だった。
「そうか。こりゃ出世頭かな」
「頼りにしてるわね」
皆その彼に対して次々に声をかけるのだった。
「これからね」
「頼んだぜ」
「うん。こちらこそ」
このやり取りは何処にでもあるやり取りだった。しかしであった。その同期の中で小笠原の一連の様子にいぶかしむものを感じた者がいた。それが岩清水健一郎であった。
眼鏡をかけた痩せた男である。黒い髪は無造作であり目の光はいささか神経質なものがある。その彼もまたこの会社の新入社員だったのである。
それでこの同期同士での親睦を深める
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