それが君の”しあわせ”?
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はなんのことはない、取り立てて変わったところも無い焼肉弁当だった。皆、特に疑問も持たずに食べていた。自分も食べようとした。だが、そんな中で―――
『ちょっとお肉がべたついてるし変な酸味があるし、おまけに臭いもちょっと変。痛んでるんじゃないの?』
それは常人では気のせいで済ませる程度にわずかな違いだったと思う。原因は、数十分間灼熱のワゴン車内に保冷もせず放置したこと。運転手だった教師が気の利かない男だったせいで一気に雑菌が繁殖したのだと断定され、学校の責任になったと記憶している。
だが、弁当を食べた全員の中で間宵だけが口に含んだ弁当の肉をトイレで吐きだした。悟子はそんな間宵を「体調が悪いんじゃないか」と心配し、弁当に口をつけずに間宵を追いかけた。そして2人が弁当の置いてあった現場に戻ってくると同級生たちが次々に腹痛やめまいを訴えているという、ある種恐ろしい光景が待っていた。
集団食中毒ということで随分騒がれたあの事件はニュースにもなり、食中毒の被害を免れたのは2人と、弁当を痛ませた男性教師に仕事を押し付けられて食事が遅れた女性教師2人だけだった。もしも間宵が味に鈍感であったなら、あの時悟子もまた間宵と一緒に市内の病院で顔面を蒼白にしながら呻いていた筈である。
悟子はあの日、意図せずしてではあるが間宵の味覚に救われたのだ。現代社会の溢れかえった食べ物たちの味を看破するその動物的な味覚に。それが損な事であるとは、どうしても思えない。自分を救ってくれたそれを、違いの分からない馬鹿舌が判断を仰げるそれは、悟子にとっては素晴らしいものだと思えるのだ。
「間宵の味覚は凄いと思うよ?私には真似できない。それに、本当に美味しいものを特別美味しいって感じられるのも、悪いことじゃないんじゃない?不味いものが分かる分、美味しいものは私よりもっとおいしく感じてるはずだもん」
その言葉にしばし呆然とした間宵は、その言葉を吟味するようにしばし唸り―――
「・・・うーん、味音痴のアンタに言われても有難味が無いわね」
「あ、味オンチ・・・っ!?」
がぁん、と間宵の口から放たれた言葉が顔面に直撃した。励ましたつもりだ何故か今までより辛辣な評価を受けてしまった悟子は酷く落ち込みながら、ふと間宵が本当に損しているのはその歯に衣を着せ無さすぎるところなんじゃないの?と考えた。だが、本人がそれを不幸せと思っていないのだから、それは不幸せではない。
結局のところ、間宵の言う幸せも悟子の幸せも、そういう人間的感性からはみ出る事のない程度の感覚でしかない。最後に幸せを決めるのは自分自身である。ただ、それでも一つだけ確かなことがあるとすれば―――それは、恐らく私たちは二度とこの店に寄らないであろう、という事だけだ。
= =
さ
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