それが君の”しあわせ”?
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を即答で「味に個性が無い」と言い切ってしまうような、ある種の食や味覚に対する拘りが彼女にはあるのだ。
しかも判断は大抵の場合一瞬。まずいものには容赦がなく、この前など回転ずしの海栗の軍艦巻きを食べて店員の目の前で「マズイ」と言ってのけたほどだ。いや、確かにあの海栗がちっともおいしくなかったのは事実だ。何だかぐちゃぐちゃしてて色も変だったし、妙に苦くて顔を顰めた。それでも店員の目の前で平然とそんな台詞を吐くほどに、目の前の少女は味覚に煩いのだ。食事という神聖な儀式を前に、遠慮という理性の鎧をそっとどこかに置いてから挑んでいるようだった。
「そんなにおいしくないの?」
「不満その一、ダシが微妙。全然深みが無いしスーパーで売ってるうどんつゆと同じレベル・・・モノによってはそれ以下。カツオベースなのは分かるけど、本当それだけって感じ」
言われてうどんの汁を啜ってみるが、普通にしょっぱくて旨味もある。香りも別段悪くない。というか悟子はうどんのつゆをほとんど飲まないので判断するにあたって重要になる経験そのものが無かった。彼女にとってうどんはうどん、それだけだ。ラーメンならばうどんよりは違いが分かるが、それでも間宵ほどは理解できない。
「不満その二、麺に全然コシが無い。箸でつまんでもあっさり麺が切れてぱさぱさな上に麺自体に全然味が無い。多分茹ですぎてるし・・・手打ちのくせに打ち方が雑なんじゃない?」
「・・・麺って味あるの?」
「冷凍でもちょっとくらいはあるわ。ここの麺にはないけどね」
むすっとした顔で麺を啜りこむ間宵。あれはとっとと片づけてしまいたいという顔だ。取り敢えず残っていた麺を啜ってみる。噛んで飲みこむ分には全然気にならないし、ダシのしょっぱさと旨味を微かに感じる程度だ。やはり、特段美味しくないとは思わない。
「不満点その三、肉に全然歯ごたえが無くてボロボロ。おまけにちょっと獣臭い。多分作ってから日が経ってるわね。肉自体も安物よ」
「あ、歯ごたえは確かに」
2人は互いに肉うどんを頼んでいたのだが、確かにここの牛肉は妙に柔らかい、というか口に入れた傍からボロボロと崩れてしまう。味には問題ないが顎が寂しい印象は受けた。ただ、感じたのはそれだけで、臭いには気付かなかったのだが。
「唯一ネギだけは鮮度がいいけど、逆を言えばいいのはそれだけよそれだけ」
「えぇ〜、ここのネギ香りがキツくて食べにくくない?」
「香りが残ってるからいいんじゃない。水分が飛んでスカスカのネギなんて乗せられても嬉しくないわよ」
そういいつつ間宵はダシに浮くネギを蓮華で器用に掬い上げて口に放り込む。しゃきっ、と繊維質が歯に押し潰された小気味のいい音が聞こえてきた。他人が食べている分には美味しそうだが悟子としては香りが強いネギは口に臭い
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