暁 〜小説投稿サイト〜
亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第八十五話 余波(その1)
[1/6]

[8]前話 [1] 最後 [2]次話



宇宙暦 795年 9月16日    ハイネセン  最高評議会ビル    ジョアン・レベロ



「どういう事だね、あれは! 国防委員長! シトレ元帥! 君達は知っていたのかね!」
最高評議会議長、ロイヤル・サンフォード氏が額に青筋を立てて怒っている。普段、事なかれ主義の影の薄い最高評議会議長にしては珍しい事だ。もっとも此処にいる人間で腹を立てていない人間など皆無だろう。多かれ少なかれ、理由は違えども皆腹を立てているに違いない。中でもとりわけ腹を立てているのが今名指しされた二人のはずだ。

「知っていたとも言えますし、知らなかったとも言えます」
「ふざけているのかね、君は」
「そういうわけではありません」
神妙な口調と表情ではあったがトリューニヒトの答えはお世辞にも誠意が有るとは言えなかった。もう少しまともに答えろ、馬鹿を煽ってどうする。

「シトレ元帥、君はどうだね。ヴァレンシュタインは君の秘蔵っ子だそうじゃないか、知っていたのかね」
シトレが顔を顰めた。秘蔵っ子と言うのが不本意なのだろう。本来ならシトレはここに居る事は無いのだが今日は特別に出席を命じられている。彼にとっては有難い事ではないはずだ。

「軍の謀略の一環としてヴァレンシュタイン中将がルビンスキーと接触する事を認めました」
「軍の謀略? トリューニヒト君、君は知っていたのかね」
「知っていました」

二人とも平然としている。面憎いばかりだ。トリューニヒトが言葉を続けた。
「以前にも話しましたが軍の基本方針は敵兵力の撃破です。イゼルローン要塞攻略は損害が多く非効率だと見ている。この方針の問題点は唯一つ、敵が出撃してこないと行えないという事です」

「そんな事は分かっている。当たり前の事だろう」
意地の悪そうな表情で言ったのは法秩序委員長、ライアン・ボローンだった。トリューニヒトがサンフォード議長に叱責されているのが嬉しいらしい。ましてその原因がヴァレンシュタインとなれば飛び上がりたいほどだろう。口元が緩んでいる、いや緩みきっている。不愉快な奴だがトリューニヒトは気にすることもなく話を続けた。

「敵が出てこない以上、こちらとしては引き摺り出すしかない。ヴァレンシュタイン中将がフェザーンに行ったのはルビンスキーと接触する事で帝国にフェザーンが同盟に接近しようとしていると思わせる事が狙いでした。帝国はそれを許せないはずです、となれば必ず軍事行動に出る」

「しかし現実には少し違う展開になっているな」
今度はジョージ・ターレルか……。この副議長兼国務委員長も皮肉たっぷりな笑みを浮かべてトリューニヒトを見ている。どうしようもないクズだな。トリューニヒトが憮然とするのを見て今度はシトレが口を開いた。

「今にして思うとヴァレンシュタイン
[8]前話 [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ