囚われの姫は何想う
[10/11]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ば……小蓮は傷つかずに済んだというのに」
「……どういう事だ?」
「さてな、後は小蓮と話せばいい。もう行け、虎の首輪は外しただろう? 小蓮の為に、甘寧と周泰は暗殺者としてでは無く武人として殺してやる。行かないのなら、手足を引き千切り、薬漬けにして、肥えた変態共の慰み者にして、最後は生きたまま肥溜めで溺れさせて……誇りなど微塵も思い出せない畜生に堕としてから殺してやる」
目を細めると、思春のそれとは段違いな殺気が部屋に溢れた。突き出す一本の槍の如き鋭いそれは、思春が幾度かしか経験した事の無いモノ。
利九の武は黒麒麟や関羽と並ぶ。彼女が居たから、明命と思春が二人掛かりでも小蓮を連れ出せずに手を拱いていたのだ。
今夜にしても、どちらかが命を落とすのを覚悟して作戦を決行していた。劉備軍逃走という不可測から、曹操対策に袁術軍の隠密を多く走らせた事で手薄になった今を置いて、救出の期待が最も高まる時機は無かった。
利九の誤ちは自身の力の過信と油断。いつもなら、普段ならと慣れてしまったせい。そして小蓮を殺すか否かで迷いが生まれていたせい。
格上の相手に本気の殺気を向けられ、思春の背を冷や汗がつーっと伝う。悍ましい脅し……では無いのだ。やると言ったら本気でやる。何の感情も感慨も向けずに、下らないゴミとして処理するだけだ、と思春にも伝わった。
「背を追うような事はしないから安心しろ。……それでは戦場で会いましょう」
相手が動かない様を見て、殺気を収めた利九は何でも無いように思春の前を横切り、扉を開けて……蔑みの瞳を向けながら口を引き裂いた。
「虎の妹……負け猫に伝えてください。無様に負けたばかりか見逃されたようですが、幼い妹を捧げてまで姉と追いかけた夢はまだ楽しいですか、と」
「っ! 貴様っ――――」
返しの言葉を聞く事も無く、利九は扉を閉めて出て行った。
思春が追ってこないのは分かっていた。ゆっくりと、今から行う戦に思考を向けて、一歩一歩踏みしめて進んで行く。
歩きながらため息をまた一つ。心にこみ上げる寂しさを誤魔化すように。
「姉達に絆されたら……小蓮には嫌われるのでしょうね。袁家がこの失態を見逃すはずありませんから私に待つのは死だけでしょう。直接嫌いと言われないだけマシ、ですか。
最期は……美羽様を脅かす孫呉の虎と負け猫に解けない怨嗟の呪いをくれてやりましょう」
淡々と語る彼女の瞳は徐々に濁っていく。抗えぬ死の宿命に怯えは無かった。
殺すよりも残酷なモノを授けよう、生きている限り痛む傷をつけてやろう、絶望の芽を育ててやろう……と、ドロドロと渦巻く負の感情が彼女の全てを支配していた。
いい環境に恵まれていたなら、彼女はただの幼女趣味な善人で終われた。雪蓮が美羽ともっと話していれば、孫
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ