囚われの姫は何想う
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夜の如く、嘗ては誇りに思っていた孫呉の血を呪っていた。
子供の頃は傍にいる親しい者の方が、生まれついてのしがらみよりも大切に思える事もある。精神の発育に於いて重要な時間を敵の中で過ごした彼女は、血の繋がった家族と同じように利九達を大切に思い始めていた。
ぎゅっと握った拳は何を思ってか。震える唇は誰を想ってか。
長い……本当に長い時間悩んできた。それでも答えは出ていない。姉を裏切る事も、友を裏切る事も出来ず、渦巻き続ける思考に解は無い。
ふいに小さな桜色の唇から零れたため息。重厚な重みを持って宙に消えると同時に……カタリ、と小さな音がした。
「――――!?」
声を紡ぎ出す暇も無く、彼女の口は押えられる。
遅れて、隣にある利九の部屋から怒声が聴こえた。
突然の来訪者に暴れようとするも、間接を抑え込まれて上手く動けない。
「小蓮様、助けに参りました」
「っ!」
少女特有の甲高いその声音は孫の家に仕える臣下のモノであった。
救いたかった存在の無事を確認して、充足に満たされた明命の優しい微笑みは暖かい。
ただ、小蓮の心に湧き上がったのは……希望からくる安堵と、絶望から来る悲哀の二つであった。
鈴の音が鳴った。リンと小さく、寝室の間に響いた。それは夢の時間の終わりを知らせる呼び鈴。
この音は知っていた。利九の脳内に呼び起こされるのは……破廉恥な格好を気にせずに跳び回る一人のふんどし女。
わざと鳴らしたと瞬時に分かり、飛び起きた利九の頭に一本のクナイが襲い掛かる。
「小賢しいっ!」
癖は知っていた。投げる刃の向きは横。斜め上から来る凶器を手の甲で弾き飛ばし、鈴の音の鳴った方向とは真逆に飛びのく。
同時に舌打ちを一つ。
何故、今日に限って自分は気配を読めなかった。いつもなら城の空気が変わった事すら感じ取れるというのに。
思い至るのは昼間の出来事。少女を殺すかどうかで揺れた心が、思い悩んでいた頭が、知らぬ内に自分の感覚をぶれさせていたのだ。
暗がりでも利九の目は見える。僅かな月明かりさえあれば、目の前に降り立った、細い目をさらに細めている女の全体を見据える事は容易かった。
敵が追撃に飛びかかって来ない事も、隣の部屋の気配が増えた事も、誰一人駆けつけて来ない理由も、あらゆる情報が利九の脳内を駆け巡る。
尖らせた意識は身体と脳髄を強制的に、自身の最高の状態へと導いて行った。
――孫呉の隠密全てを使ってますね。こちらの隠密の絶叫すら上がらないとは……これが孫呉の本気ですか。普段なら、ふんどし女や猫狂いがある程度近くに来ただけで分かるのに……私はそれほど……心乱れていたという事ですか。
考える間に二つ、小さな気配が隣の部屋から消えた
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