志乃「うちの兄貴、年上です」
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爽やかな笑みを浮かべながら自己紹介を終わらせ、席に戻る。辺りからは拍手が送られる。……ナカタサンって誰?
その後も自己紹介は進んでいった。とっとと終わらせて自席に戻る奴や受け狙いのような紹介をする奴、フリじゃなくていかにも不良といった奴もいた。
皆、「好きな人」は家族だったり著名人の名を上げていった。ここでガチな名前出したら、この先の学校生活に支障を来たす事になるのは間違いないしな。
そして、自己紹介も半分が過ぎ、あと四人ほどで俺の番になった。
そういや、俺何にも考えてなかった。ずっとクラスの奴の紹介聞いてて自分の事忘れてたよ。
ひとまず、年上である事は言う気無い。簡単に、注目されない程度に言っていけばいいだろう。俺はこのクラスで陰キャラ以上普通以下の立ち位置になるって決めてんだよ。
出身中学と趣味とかは普通に言えるな。好きな人は……剣道選手の岩田さんでも出しておくか。知ってる奴いないだろ。
そうこうしているうちに、俺の番になった。俺は椅子から立ち上がり、前の方へと歩いていく。年下という感覚が俺に緊張感を与えない。なんでだろうな、俺こういうの苦手なのに。
「葉山伊月です。近所の成北中出身です。趣味は音楽を聞く事で、部活は剣道やってました。好きな人は剣道の岩田選手です。よろしくお願いします」
短い自己紹介だなー、内心思いながら、俺は自分の席に歩いていく。最初に比べて小さくなった拍手は、俺としてはちょうど良かった。
俺が座った瞬間、俺の横を小柄でおさげの髪を揺らしたあいつが通り過ぎる。変な事だけは言うなよ?
妹は特に表情を変える事無く、緊張した面持ちも見せずに話し出す。
「葉山志乃です。成北中学校出身で、趣味はピアノを弾く事です。部活には吹奏楽部に入っていました」
そこで一拍置いて、こいつは口を開けた。
その内容が、これまでの連中と全く違っていたが。
「好きな人はいません。ですが、兄がいます」
そこで、周りの何人かが俺に視線を送ってくるが、俺は興味なさげな感じで頬杖をついている。あくまで他人気取りでいかせてもらおう。
と、思っていたのだが……。
「で、うちの兄貴は年上です」
その瞬間、教室内が凍りついた。
俺は、背中にドライアイスを入れられたかのような冷たさを感じる。まずい。これはまずい。
あいつ、もしかしたらやると思ったけどガチでやりやがったぁぁあああ!!
あいつがどうやって席に着いたのか分からない。そして、どうやって学校を出たのかさえ分からない。
いつの間にか自分の部屋でパソコンを開いていた俺は、自分の事でいっぱいだったのだ。
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