トワノクウ
第五夜 明けまく惜しみ(二)
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朽葉は厳しく、頷き返してくれた。
「沙門様、もう一度出かけてきます。――くう、日比谷へ急ぐぞ」
「はいっ」
くうは立ち上がった朽葉に続き、イタチをしっかり抱えて立って居間をとび出した。
女二人の慌ただしい足音が去ってから、沙門は呑気に茶菓子を摘む旧友を見据えた。
「只二郎。お前、朽葉に別口で依頼が入っとるのを知って陰陽衆を動かしたのか」
「もちろん。市井の祓い人一人のために寮全体の足並みを乱すわけにはいきません。これも人々に請われての結果ですよ」
――佐々木只二郎という男は常にこうだ。一族全体で「幕府を守る」という志を頑として貫いていた頃から、幕府なき今も己の立ち位置を変えようとしない。
陰陽寮は、妖を視る目を持った異端者たちの最後の寄る辺。そこを守り、妖の世と交わってしまった人々の最後の居場所を守り通すのが、今の佐々木只二郎の意地なのだ。
情がないわけではないのに、情を踏み越えてしまう。それだけ必死なのだ。その必死さが沙門としては心配になる。
「私も貴方に聞きたいことがあります」
佐々木は切子に残った冷茶を飲み干し、卓に置いた。
「いつから『三人目』を手元に置いていたんですか?」
「三人目?」
「〈白紙の者〉を除いて〈彼岸人〉だけを数えれば三人目でしょう、彼女は。くう、といいましたか」
やはりごまかせなかったか。くうが彼≠ニ同じ両目――鵺に取られた目をしている時点で彼岸に関わる者と公言しているも同然だった。
「天網はなくなった。だから〈白紙の者〉とは呼ばずただの〈彼岸人〉になったんだろう。くうにゃあお前が期待するような力はない。その上であの子をどうするつもりだ、只二郎」
「おや、すっかり信用をなくしましたねえ。心配しなくても何もしませんよ。彼女含め我々の元にいる|彼岸人にせよ、神社にいる彼岸人にせよ、現状を打破しうるとは思えませんしね」
妖は各地で活発に動き始めている。彼≠ェいなくなってからの六年間は天座が率先して妖を森や山に下がらせていたにも関わらず、どんな弾みがついたか、昼日中でも市内で暴れるものもいる始末だ。だからこそ沙門も朽葉も、佐々木らも廃業していない。
本来なら妖は表舞台から少しずつ消え、人々の伝承に上るだけの存在になり、互いに領分を侵さず生きていけるはずだった。
ゆるやかに、ひそやかに、たしかに、この世は変わり始めていたはずなのに――誰が歯車を巻き直した?
「今回はお手並み拝見ということで」
佐々木は至って楽しげに口の端を上げた。
「妖怪に相対したあの娘さんが彼≠ニ同じ行動を起こすか、は
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