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或る皇国将校の回想録
第三部龍州戦役
第四十七話 <皇国>軍の再動
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ら千早を呼ぼうとすると――新城の臓腑に不快な蠢動を行わせる光景が飛び込んだ。

「なんのつもりだ、女。剣を捨てれば見逃してやるというのに」

「貴様こそ、大隊長殿に手を出さなければ見逃してやってもよかったのだがな」
 ――高級将校の軍装に身を包んだ大柄な壮年の男と自分の個人副官が向き合っていたのだ。
 天霧冴香は両性具有者であったが、新城は基本的に女性として扱っている。その個人副官に相対している男が刃を油断なく構える姿は、高級将校というよりも舶来絵巻に描かれている騎士に似た気迫があった。
 一方、天霧冴香中尉は鋭剣を構える姿は美しくはあったが(新城から見ると)それはあくまで美術品としての美であって自身の盾とするべきものではなかった
 ――止めろ!逃げろ!
 叫んだつもりだが――奇妙な音が喉から漏れるだけだった。新城がそれを自覚したのとほぼ同時に彼が止めようとした戦いも決着がついていた。

「まだだ――私は義務を――」
 太腿をおさえ、そこから湧き出る血を止めようとしていた――〈帝国〉将校が。
「――苦しめはしない。」
 一見たおやかな手から鮮やかに胸部へと刃が滑り込み、一瞬の痙攣を経て老騎士は黄泉路へ旅立つこととなった。
一瞬の剣劇で主役を務めた天霧個人副官は鋭剣を引き抜くと速足で新城の下に駆け寄る。
「大隊長殿、申し訳ありませんでした。自分が迂闊に離れたばかりに」
光帯に照らされた美しいいきものの表情は苦悩に満ちていた。

「見事だった――君に剣を抜かせる事は好みではないが」
 早口でそう言うと新城は何故かとぐろを巻いている天龍の無事を確かめるべく歩み寄った。

『少佐殿が御無事の様でなによりです。』
 そう言って蜷局を解くと中から吐血の後がある騎兵が崩れ落ちた。相当死ぬまでに苦しんだのだろうが坂東は気にした様子はない。結局は種族からして違うのだ、感覚が違うのだろう。

「申し訳ありません、観戦武官である貴方にこうした火の粉が降りかかるとは」

『私も、観戦武官となった時からこうなる事は覚悟しています。
どうか少佐殿はお気兼ねなくお進み下さい』
 天龍独特の細波で青年龍は“声”を響かせた。
「特務曹長、この敵は将官だ。押収物は厳密に取り扱う様に」
 ほかに言うべきことはなかった。既に戦闘の痕跡は血の臭いしかのこっておらず。猪口が手をかけた死体以外は既に森の奥へと運ばれている。馬は剣牙虎達が取り囲み、怯えきっている。間も無くそうした恐怖とは永遠にお別れできるだろう。

「大隊長殿、友軍に動きが」
 導術兵が駆け寄り、指揮官へと囁いた。新城が無言で頷くと導術兵は小声で伝える。
「集成第三軍が先遣隊を派遣しました。部隊名は先遣支隊です。浸透突破を行い、払暁の主力による再攻勢を開始するまで後方攪
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