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【短編集】現実だってファンタジー
俺に可愛い幼馴染がいるとでも思っていたのか? 中編
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で距離がなかなか縮まらない。俺だって50メートル走7秒ちょい位の速さは出せるのに、今のいりこはそれ以上の速さに思えた。

しかし、足の速さで負けているというその事実よりも、俺は別の事により多くの思考を裂かれていた。
どうしてだ。何故俺はこんなにも必死に彼女を追いかける。何故わざわざ誤解を解こうとしている。アイツの事を内心で気味が悪いとか思っていたじゃないか。それ以上に、俺がおかしいのかもしれないと悩んでいた。だがいりこと関係が悪化して絶縁状態になれば、もうそんな悩みは関係が無くなるはずだ。

そして、後悔の時がやってくる。全力で走り、前も碌に見ていなかったいりこは校舎外の非常階段へ跳びだす。非常階段と銘打ってはいるが、実際にはこちらの階段の方が校舎内のそれより地の利が良いのでよく使われているのだが―――そこは、手すりが無いのだ。老朽化の所為で少し前に崩れてしまい、慌てて走れば方向転換しきれず落下してしまう。危険なため、本当は閉じておかなければいけない扉だった。

開けたのは、昼の逃走の時にあそこを通った俺だ。

「いりこ、止まれ!!」

言葉はしかし、間に合わない。俺の最悪な想像をそのままなぞる様にいりこは階段で足を踏み外し、体が宙に浮いた。落下するであろう段の高さは約4メートル。落ちれば当たり所が悪くて骨折するかもしれない。

だが当たり所が良ければかすり傷程度で済むかもしれないし、人が死ぬほどの階段でもない。落ちたのはいりこの不注意だし、彼女にとっても一時の感情に流されてはいけないといういい教訓になるだろう。だから―――俺がわざわざ助けてやる必要なんて、特にない。

特にない、筈なんだけどな。


「こんのぉぉぉーーーーーーッ!!」
「あ・・・っ?」


全力で跳躍。ふくらはぎが予期せぬ激しい動きに痛むが、体はちゃんと加速して前へ跳んだ。この速さで落ちたら骨折くらいはするかもしれないが、ともかく俺の踏み出しによる加速がいりこの落下を上回った。体験したことのない浮遊感と高所から落下する恐怖を抑え込み、必死で手を伸ばし、いりこの頭を抱え込んで頭を守るように体を縮める。

運動音痴という訳ではないがそれほどスポーツが得意でもない俺が、よくもまぁ咄嗟にこれだけ出来たものだ。自分で自分に驚きながらも、下に待っているであろう固いコンクリートの地面に備えて体をこわばらせ―――俺達は、重力に引かれるがままに落下した。
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