第十一章 追憶の二重奏
エピローグ 明けない夜
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れてとんでもない魔法を放って仲良く皆で墜落―――って事になってたかもしれなかったわ」
「む、あ、そ、そうだな」
キュルケの口にした事が容易に想像出来た士郎は、先程かいた汗とは別の汗を額に滲ませた。キュルケはそんな士郎に向かって歩みを進める。
「その点あたしならちょっと意地悪するだけで済むから良かったわね」
「じゃ、邪魔って、な、何の事を言っているんだ?」
ここまできて否認する士郎に若干呆れた笑みを浮かべたキュルケは、手を伸ばせば届けるほど近づいた士郎を見上げる。
「別に隠さなくても分かってたわよ」
「う……」
「恋は障害が多ければ多いほど燃えるものだけど……ちょっと障害が多すぎじゃないのかしら?」
「それを俺に言われても」
「ナニカ?」
「ナンデモアリマセン」
にっこりと笑いながらキュルケが士郎を見上げる。
言いようのない圧力を感じた士郎が崩れるように項垂れた。
「……む〜〜〜、はぁ、やっぱり先を越されてたか」
「何の話だ?」
項垂れた士郎をじー、と見つめていたキュルケが大きく溜め息を吐く。士郎がそんな風に悔しげな声を上げるキュルケに疑問の声を上げると、キュルケは片手で顔を覆い星空を仰ぎ見た。顔は頭上に向けながらも、視線は横目に士郎を見る。
「だいぶ落ち着いたみたいね」
「……そんなに変だったか?」
「まあ。普通は気付かないと思うわ」
「じゃあ、何で気づいたんだ?」
「……それは……全く、本当に卑怯だわあなたって」
「?」
腕を組み首を捻る士郎の姿に大きく首を振ったキュルケは身体の向きを変え、困惑の様子を見せる士郎を真正面から見上げた。
「あたしがずっとシロウを見ていたからに決まってるでしょ」
「っ、そ、そう、か」
「むぅ……そうかじゃないでしょ―――馬鹿」
「―――っちょ、おま」
頬を掻きながら顔を背ける士郎を軽く睨みつける。睨みつけているのを視線を逸らしたことで見ないふりをする士郎。しかし、キュルケはそれで諦めるような容易い女ではない。士郎が自分を見ていないことをこれ幸いと、逡巡することなく一息に士郎に抱きつくキュルケ。
「ナニヨ?」
「っう」
驚いた顔で自分を見つめる士郎をジト目で睨み付けたキュルケは、言葉に詰まる士郎の様子に喉の奥で小さく笑った。
「―――っ、ふ。あ〜あ、あたしってこんな面倒な女じゃなかったつもりだったんだけど」
「……面倒なんて思ってはいないぞ」
「……そう、ありがと」
士郎の厚い胸板に額を当て顔を伏せたキュルケは、微かに聞こえる鼓動に身を任せるように目を瞑る。額から響いてくる確かな鼓動。一定のリズムで脈動する心の臓の音色は、聞いているだけで穏やかな気持ちになる。
ほかの誰でも
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