第十一章 追憶の二重奏
エピローグ 明けない夜
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められたセイバーの頬が、士郎の厚い胸板に押し付けられ歪んでいる。
声を出すどころか息さえ出来ないセイバーを見下ろした士郎は、耳元に口を近づけ囁く。
「……聞こえるだろ」
「……はい」
士郎の問い掛けに、セイバーはようやく動き出す。士郎の胸に顔を押し付けながら首を縦に動かしたセイバーは、上目遣いで士郎を見る。
「凄い動悸ですね」
「……当たり前だろ」
「当たり前、ですか」
「ああ」
顔を伏せたセイバーは、自分から士郎の胸板に顔を押し付けると、士郎から見えない位置で笑みを浮かべた。
「これで、俺が揶揄っても嘘を言ってもいないことが分かっただろ」
「……足りませんね」
「なんだって?」
「……私を説得したいのなら、もう少し行動して見せてください」
そう言って、セイバーは顔を上げる。
潤んだ瞳で見つめ、柔らかな桃色の唇を誘うように微かに開き、熱く火照った華奢な身体を押し付けながら。
―――誘うように。
だから―――。
「……ああ」
士郎は誘いを断ることなく迎え入れるようにおとがいを上げるセイバーに向かってゆっくりと顔を寄せ―――。
「―――お邪魔するわね」
「「――――――ッ!!??」」
―――飛び離れた。
一瞬にして十メートル以上の距離を取った二人は、同時に割り込んできた声の主に顔を向ける。
「何をそんなに驚いた顔をしているのよ?」
「きゅ、キュルケ」
士郎は喉の奥から絞り出したような声を上げる。
「黙って見てるつもりだったんだけど、やっぱり我慢できなくなっちゃってね。ごめんねアルト」
肩を竦めながらキュルケがセイバーに向けて謝罪をすると、セイバーは未だ赤く染まった顔を勢い良く左右に振りだす。
「なっ、なな、何を謝っているのですか?! わ、私は別に謝られるような事はしていませんし、されてもいません!? ええ! 本当に! そ、それでは私はきゅ、急な用事を思い出したのでし、失礼しますっ!!?」
隠すように顔を伏せながら勢い良く喋ったセイバーは、顔を甲板に向けたまま走り出す。疾風のように駆け出したセイバーは、キュルケの横を抜け船室へと繋がる扉を壊れろとばかり勢い良く開け放つと中へと飛び込んでいった。
後に残されたのは士郎とキュルケの二人だけ。既に日が落ちた甲板には空に昇った月明かりしかなく、常人であれば離れたところに立っている人の顔など見ることは不可能であったが、士郎には幸か不幸かハッキリと見えていた。
明らかに機嫌の悪そうなキュルケの顔を。
「……あ〜と、な、何か用か?」
「別に、シロウがいなかったから探してただけよ。まあ、でも見つかったのがあたしで良かったわね。これがルイズとかだったら船の上だなんて忘
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