第四章
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「はい」
「その通りです」
これはもう言うまでもない。六人もそれを隠さない。
「幼い頃から化け物と言われ」
「見世物にされ」
それは確かにおぞましい過去である。しかしその過去を語る言葉も口調も穏やかなものであった。そこには悟ったものすら存在していた。
「そうして生きてきました」
「私達の前半生」
「しかしそれが」
慶次はまた言ってみせた。
「貴方達を仏の道に進ませたというのですか」
「その為にこの寺に辿り着きましたし」
「お師匠様にも御会いできました」
「確かに」
今までの話から慶次もそれには頷くことができるのであった。
「そうなりますな。しかし」
「ええ」
「まだ何か」
「そうした前半生を貴方達が乗り越えられたのはどうしてでしょうか」
彼が今度聞くのはそこであった。
「その辛い生い立ちを乗り越えて。今に至るのは」
「それこそがお師匠様の御教えなのです」
永生が述べてきた。その白い顔に柔和な笑みを浮かべてみせた。
「僧正様のですか」
「そうです。明王や天部ですが」
「はい」
仏の一つである。所謂不動明王や帝釈天である。
「腕が何本もあったり」
「ええ、それは」
それは仏像では普通である。
「異形の姿をしておられますね」
「そうですな、それは確かに」
慶次とて知らない筈がない。俗に三面六臂の活躍という言葉もある程だ。こうした姿も仏像においてはごく有り触れたものであるのだ。
「それと同じであると」
「御仏と同じですか」
「左様です」
六人は穏やかな声で述べてきた。またしても。
「ですから。姿を怖れる必要はないと」
「そう仰ったのです」
永久と永全の言葉であった。
「私達にとってはこれは思いも寄らぬ言葉でした」
永光も言った。
「まるで。渇きの時の雨の様に」
「雨ですか」
その言葉は慶次にもわかった。
「そうです、雨です」
「まさに」
また六人は慶次に語ってきたのであった。
「それにより私達は救われ」
「そうして今に至るのです」
「そうだったのですか」
慶次はそこまで聞いてまた頷いた。彼にとっては今までに聞いたことのない大きな言葉であった。それを聞いて心が晴れやかになるのも感じていた。
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