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僧正の弟子達
第三章
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茶と菓子を静かな物腰で飲み食いしていく。大柄で派手な外観からは思いも寄らぬ繊細な動きであった。
「結構なお味で」
「お見事です」
 その彼の動きを一部始終見ていた永全が言ってきた。
「風流人とは聞いていましたが」
「何、まだ茶の道に入っているところまでも行っておりません」
 慶次は穏やかな笑みを浮かべてそう永全に答えてきた。
「風流も。まだまだです」
「まだまだですか」
「その通りです。まだ千殿や長益様の域には」
 千利休は言わずと知れた茶道の創設者だ。彼は信長のブレーンでもあり慶次はその関係で彼と知り合っていたのだ。長益とは信長の弟で茶三昧の日々を過ごしていることで知られている。後に有楽斎としての名が知られるようになっていく人物である。
「いえ、中々」
「そうお世辞を言われると困ってしまいます」
 慶次は顔を崩して笑ってきた。照れ臭いのである。
「拙者なぞに対して」
「左様ですか」
「ええ。ですからお褒め頂くのはこれ位にされてくれれば」
「わかりました。それではこれで」
「はい」
 これで茶の話は終わった。話は本題に入るのであった。
「それでですね」
「お師匠様のことですね」
「そうです」
 慶次は永生の言葉に答えた。
「素晴らしい方だとは聞いていますが」
「はい。それは私達が最もよく知っていることです」
 今度は永明が答えてきた。
「私は。御覧の通り」
 ここで慶次に自分の手を見せる。あまりにも長いその両手を。
「化け物の様に長い手を持っています。この手により化物と言われ蔑まれてきました」
「そうだったのですか」
「生まれてすぐに捨てられ」
「私もです」
 永明の隣に座っている永遠が口を開いてきた。
「足の長さを嫌われ親に捨てられ。それからは見世物に出されていました」
「見世物に」
「辛い日々でした」
 彼は語る。己の過去を。
「蔑まれ哂われ。石を投げられ棒で打たれることもありました」
「その姿故にですか」
「左様です」
 今度は永光が言ってきた。どうやら彼も二人と同じような生い立ちを経てきているようである。
「私も。行く先々で哂われ化け物だ人ではないと言われてきました」
「人とは。惨いものです」
 慶次は表情を消して淡々とした調子で述べるのであった。
「己とは違うものを恐れ蔑み罵る。そうした面もあります」
「その通りです」
 永久が答えてきた。今度は彼であった。

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