高校2年
第四十九話 二人乗り
[3/4]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
翼は思うがままに投げてみた。
ボールに腕の振りの力は伝わらず、フワッとした球筋になった。
「そうそう。上手いやんけ。スクリューっぽくしたいなら、ちょっとシュートっぽくしてな」
知花に促されるまま、翼は何球も何球も投げた。
力一杯投げるわけではない。あくまでもキャッチボールだが、しかし感触は掴めてきたように思えた。サークルチェンジ。新しい決め球になるか。
「おーし、もうええやろ。後はこの感じ忘れんようにして、ブルペンでも投げてみな。」
知花がそう言った頃には、既に周りは暗くなっていた。気温も下がり、キャッチボールをする2人を見守っていた葵の肩も少し震えている。
翼はまた知花に頭を下げた。
「ありがとう。良い練習になったよ。何だか投げられそうな気がしてきた。」
「あ、別にそんなお礼はええけん」
知花はいたずらっぽい笑みを浮かべ、横目で葵の方を見た。
「見返りは、葵さんとの一日デート権な」
「ハァ!?」
突然話の矛先が向いた葵は頓狂な声を上げた。
まさか彼氏相手に、こんな大胆な事を言うとは。
そして、この申し出に対しての翼の返事も、葵にとっては驚くべきものだった。
「あ、いいよ」
「ちょっ!?えぇっ!?」
実にあっさりと翼は了承した。
これには葵も、真面目に動揺を隠し切れない。
どういう事なのだろうか、自分の彼女を差し出すなんて。
「だって、たった一日デートしたくらいで、多分葵、俺と別れるとかそんな事考えないだろうし」
これまたあっさりと言い切った翼に、葵は閉口した。知花はキョトンとした後、ガッハッハと豪快に笑った。
「そんなに開き直られちゃー、こっちも興醒めやの!図太い奴やなぁお前は!」
そう言った知花の翼への視線は、多少のリスペクトを含んだものへと変化した。
確かに、こいつには見所があるのだろう。
1人水面に越境しても平然としていて、そして自分の彼女に関しても何も心配していない。
根拠がある自信かどうかは置いといて、図太い。
それは確かだ。
困らせてやろうとした知花は、目論見が外れたにも関わらず、妙に楽しく感じた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「……」
「良い加減機嫌直してくれよー」
知花の家から帰る道中、葵はむくれて口も効かず、前で自転車を漕ぐ翼の背中をポカポカと叩いていた。翼が声をかけても、ぷい、とそっぽを向く。臍を曲げたようである。
「だって知花の奴に、いやデートなんてマジ無理マジ無理!だなんて焦った顔で言うの、癪じゃん。」
「実際にデートさせられるかもせんあたしの立場になりぃよ。もう、配慮が足らんのやけー」
葵は今度は頭をポカポカを叩いてきた。
翼はバランスを崩しそうになりながら
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]
しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2025 肥前のポチ