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亡命編 銀河英雄伝説〜新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)
第百二十五話 酔う
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。何処が似ているのです?」
女性二人が止めようとしたがヤンは受け入れなかった。意趣返しとでも思ったか……。
「意趣返しじゃありませんよ、嫌がらせでもない。……似ていると思うんです。二人とも現実を見る目を持っている。そして理想を持ちその理想に酔っている。私にはそう見えますね、本当に良く似ています」
「……理想に酔う」
ヤンが呟いた。眉を顰めながら考えている、多少は思い当たる節でも有るか。サアヤとフレデリカは諦めモードだ。
「ルドルフは銀河連邦が衆愚政治に陥った事で民主共和政に限界を見た。そして銀河帝国を創立した。当時の連邦市民の殆どが帝国の創立を望んだ事を考えると連邦市民は民主共和政に幻滅していたのでしょう。市民から見捨てられた連邦は国家としての寿命を使い果たしていたのだと思います。そういう意味ではルドルフが銀河帝国を創立した事は間違ってはいない」
サアヤが顔を強張らせて“閣下”と俺を窘めた。ウンザリだな、地位が上がると言いたい事も言えなくなる。
「しかし彼は劣悪遺伝子排除法を制定し暴政を布いた。それでも間違っていないと言えますか?」
おいおい、そんなムッとするなよ。
「間違ったのではない、酔ったのですよ。ルドルフは自分の理想に酔った。そして現実を見失い悲劇、いや惨劇が起きた」
「……」
「彼には理想が有った。一握りのエリートが国を統治しその他大勢はそれに従う社会。極めて効率的で管理された無駄のない社会、それこそが彼の理想だった。その理想の中では救済を望む弱者は無駄でしかなかった。淘汰されてしかるべきものだった」
「しかし、そんな事は……」
「ええ、本来許される事ではありません。現実を見据えていれば弱者の切り捨てなど出来ない。だからルドルフは理想に酔ったと言っています」
ようやくサアヤとフレデリカも話に関心を持ち始めた。
「統治者が理想を持つ事は悪い事では有りません。理想を持ち現実を憂いその落差を埋める、それが統治者の責務でありどのように実現するかが統治者の力量と言えるでしょう。そして力量を正しく発揮するには冷徹さが必要だ、しかし理想に酔ってしまえば冷徹さは失われる。冷徹さの無い力量は暴政を引き起こしかねない……。それがルドルフの場合は劣悪遺伝子排除法になった、ルドルフは理想に酔ったんです」
或いは酔ったのは自分に対してかもしれない。まあどっちでも同じだな。ラリパッパの頭で統治なんて危険以外の何物でも無い。
「ヤン提督、私には貴方も理想に酔っているように見えます。民主共和政の理念という理想にね。本来なら貴方が危惧するのは民主共和政の持つ脆弱さと同盟市民の成熟度でなければならない筈です。だが貴方はそれを無視し私を不安視し危惧している。民主共和政の理念に酔っている、否定できますか?」
「……」
あらあら
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