第一話〜流れ着く世界〜
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「おのれ!」
部下の前では絶対に見せないようなその態度で、今彼女が置かれた状況がどれだけ危険なのかを物語っていた。
本来なら斯衛軍による実機演習であった。だが、突然のBATEの来襲により、実弾のない参加部隊は大きな被害を受けた。それが2時間前の出来事である。それでも、今なお進行してくるBATEの群れを撤退の時間を稼ぐために彼女は戦線を押しとどめていた。
もちろん、それをやっているのは彼女だけではない。参加部隊の半分近くがその戦闘に参加している。だが、残りの半数はBATEの襲撃の初期段階で壊滅していた。
「不甲斐ない!」
それは状況を好転させられない自分に向けての言葉か、それとも早々に散ってしまった仲間に対してなのか、それは本人にもわからなかった。
BETAの襲撃は地中からであった。いきなり足場を崩される形となった多くの部隊が、それに対応を見せる前にBETAの群れに呑まれると言った結果をもたらした。
しかし、それでも全体の半数を失いつつも、撤退の為の戦線を維持できていることから、帝国斯衛軍の能力の高さを示していた。
もう何体目になるのか分からない蠍を彷彿とさせるBETA、要撃級を長刀で両断する。すると網膜投影されている機体ステータス画面の武装欄の一部が赤く染まった。
「長刀が限界……模擬刀ではこの程度かッ」
既に数十以上のBATEを切り裂いているその長刀は、本来なら訓練用に刃引きされているものであった。だが並のパイロットならその長刀で実戦を行うことすら難しい為、ここまでその長刀を使い続けることができたのは、単に月詠真那の飛びぬけた技量によるところが大きかった。
今、月詠の武御雷に残っている武装は各部に内蔵されている近接用ブレードのみである。近接武装としては模擬刀である長刀よりもこちらの方が切れ味は上なのだが、各部関節に掛かる負担も上であった。
今この戦場に求められているのは、一分でも長くこの戦線を維持することであるため、彼女はこのいつまで続くのか分からない戦闘で、機体の消耗の大きい戦闘機動を行うことを躊躇っていた。
「くっ」
じわじわと自身の操る機体が追い詰められていることを月詠は嫌でも理解させられてしまう。
その思考と一瞬見せた戸惑いから、武御雷の挙動に隙が生まれた。
「!しま――」
気付いた時には、網膜投影されている映像に要撃級の甲殻類の爪を連想させる腕が振り下ろされるシーンが写りこむ。
(ここまでかッ、いや、せめてコイツだけでも!)
その思考が浮かぶ前から、月読の腕は既にコンソールを操作している。だが、それでも間に合わない。
この時、近くにいた斯衛軍の衛士は月詠の機体を見ていて思った。『あれはもう助からない』と。
月詠もそれは理解し
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