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乱世の確率事象改変
変わらぬ絆
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て口を手で抑え、声を必死で押し殺して涙を流さぬように震え続けている、普段とは余りにかけ離れた星の姿があった。

「やめてくれ。すまないが今は……誰かに当たったりしないで欲しいんだ。怒りたいのは、信じたくないのは、喚きたいのは、鈴々一人じゃないんだ」
「……ごめん、なのだ」

 震える声は友への想いに揺れる。泣いて直接表現せずとも、白蓮は感情を隠す事は出来ていなかった。

「星、お前は私の天幕に行け。大丈夫、直ぐ行くから。もう我慢するな、バカ」

 声を掛け、何も言わずに走って出て行った星を見送ってから、白蓮は泣いている鈴々に優しく語りかけた。

「なぁ鈴々。お前の知ってる桃香はそんな嘘をつく奴か?」
「……つかないのだ」
「どっちを信じるか、なんて出来ないよな。雛里も、桃香も、どっちも信じたいんだから」
「……うん」
「よし、お前は優しい、いい子だな」

 鈴々に微笑みかけた白蓮は、自分の方に身体を向かせて、胸に顔を埋めさせた。
 くぐもった嗚咽が響く。鈴々は何を信じていいかも分からなくなっていた。だから、白蓮の与えてくれる優しさに甘えた。
 絆を繋いだ部下のどちらを信じるか信じないかのハザマで揺れた事のある白蓮は、星や鈴々とは違って冷静になる事が出来た。

「桃香、愛紗、朱里。今日はもう終わりにしよう。こいつらも乱れた感情じゃあ正常な判断も決断も出来やしない。私もいろいろと考えさせて貰うから、お前らも各々で交渉の事を振り返っておけ。鈴々、今日は私と一緒に寝ようか」

 コクリと頷いた鈴々を抱きかかえながら、すっくと立ち上がった白蓮は天幕の入り口に歩みを進め……途中でピタリと脚を止める。

「朱里……あんまり自分を責めるなよ。曹操の思考誘導に嵌ったのはあいつも一緒だ。それに、幽州で負けた私にも秋斗の心が追い詰められた責任の一端があるからさ」

 バサリと入り口を開ける音が鳴り、天幕内は静寂に戻るが……やはり誰も、話そうとはしなかった。


 †


 白蓮は自分の天幕内に着くと同時に、泣きじゃくる鈴々を降ろして、寝台に倒れ込んで震えていた星を二人で抱きしめた。

――寂しいだろう、哀しいだろう、怒りたいだろう、悔しいだろう。お前だけ……あいつとちゃんと話してないんだから。本当の自分を見せてないんだから。

「泣け泣け。もう声も出して泣いていい。お前は思う存分泣いていいんだ、星」

 大きな声が響き渡った。星がこれほどまでに感情をさらけ出した所など、白蓮は今まで見たことも無かった。
 牡丹が死んだ時も、負けそうな時も、何時でも星は抑え込んで、必死に意地を張っていたから。

――喚き散らして、怒鳴り散らして、当り散らして……本当は桃香達を責め抜いてやりたかっただろうに。

 
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