第十一章 追憶の二重奏
第十話 剣の鳥籠
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程も空中に逃げ追い詰めたかと思えば逆に剣の檻に閉じ込められ、空の上だと言うのに飛べない士郎に翻弄されてしまう始末。
だからだろうか、逃げ場がない決定的な場面に追い詰めたと言うにも関わらず、ワルドたちは士郎を取り囲むだけで襲いかかろうとはしなかった。警戒するように士郎を睨みつけるだけ。
そう―――ワルドは警戒していた。
殺ったかと思えば紙一重で避けられ逃げられ続け、結果こんな所まで追いかけて来てしまった。
……この剣の檻の中にまで。
まるで、追い詰めたつもりが追い込まれたかのように……だからだろう、士郎をこの死地に追い詰めたにも関わらず、襲いかからないのは。狂気に染まった思考の片隅にこべりつくように残った理性と戦士としての本能が叫んでいる。
―――誘い込まれた、と。
だからワルドは動かない―――否、動けない。
追い詰めたかと思えば、実は誘い込まれていただけのように感じとったため。そのため圧倒的に有利でありながら、ワルドは動く事が出来ないでいた。
だが、それも時間の問題である。
警告を上げる理性と戦士としての本能では、今の凶気に犯されたワルドの手綱を握るには力が足りないのだ。それを証明するかのように、士郎を取り囲むワルドたちの身体が段々と前傾していく。肉食獣が獲物に襲いかかる直前の仕草。全身の身体をバネとし、獲物に一瞬で襲いかかる、その前段階。士郎の周囲の空間が溢れんばかりの殺意に歪み始める。
追い詰められ逃げ場がない士郎は、“七夜”のナイフを消すとゆっくりと自由になった右手で足場にしている剣の柄を握り締めた。
身体に力を込め、更に姿勢を低くし剣と一体になるかのように意識をする。
周囲が殺気で埋め尽くされ、破裂しそうになる空間。
合図は―――なかった。
巨大な岩が空を飛んだかのような空間を無理矢理引き裂くような音が響く。
その数十。
士郎を目掛け全方位から十の白い線が生まれる。
全身の筋肉と魔法による飛行が高次元で纏まったワルドたちの突撃。士郎とワルドの間に広がっていた空間を瞬く間に食い尽くし、その牙を、爪を士郎に突き立んとする。
逃げ場はない。
例えあったとしても、どうしても地を蹴る動作が必要な士郎は、その僅かなタイムラグにより空中で十のワルドの内どれかに身体を引き裂かれてしまうだろう。
それほどまでにワルドの敷いたこの包囲網は密であり。ワルドたちの突撃の速度と威力は桁違いであった。
この包囲網を抜けようとするならば、迫るワルドたちの合間を抜けるしかない。
だが、そんなことは不可能である。
例え全力の士郎でも、跳躍のため剣を蹴りつけるために生じる僅かな時間が必要であるため、空中に身を踊りださせた時にはもうワルドたちのどれかに身体
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