第五章
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第五章
しかしこの日の彼も相変わらずだった。朝食を採っていたがやはり固くパサパサとしたパンを食べそこに水があるだけだった。朝はそれだけだった。
「いつもの食事ですね」
「我が国はまだまだだ」
発展が軌道に乗ってもまだこう言うのだった。もう髪は白くなっている。そして彼に声をかけるリンデンバーグも顔には皺が深く刻み込まれていた。
「国民は確かに満足に食べられるようになった」
「餓えは完全になくなりました」
「しかしまだだ」
彼は言うのだった。
「まだ国民は柔らかいパンを満足に食べてはいない」
「はい。それにはまだ至っていません」
シュツットガルトが今食べているような固いパンをようやく腹一杯食べられるようになっただけである。本当にそれだけだったのだ。
「そして肉もない」
「ソーセージ程度ですね」
「国民が皆新鮮な肉とミルクを何時でも好きなだけ食べられ」
シュツットガルトはさらに言葉を続ける。
「そして仕立てのいい服を着て自動車に乗る」
「誰もがですね」
「そうならなければな」
こう言うのだった。
「国民の誰もがな」
「あの隣国ですが」
リンデンバーグがここでまた隣国のことを話した。
「最近かなり苦しいようですね」
「そのようだな」
シュツットガルトもそれは知っていた。国家元首、それも権限が集中する独裁者と言われる立場なら情報が集まるのも当然だ。情報は力なのだ。
「極端な情報統制を敷いているがな。話は聞いている」
「間も無く飢餓に陥りそうだとか」
リンデンバーグはこうした話もした。
「どうやら」
「愚かなことだ」
シュツットガルトはその話を聞いてこう言い捨てた。
「政策の失敗どころではない」
「そうですね。確かに有り得ない失政のようです」
リンデンバーグはまた言った。
「ですが我々は」
「私の政策もかなり批判された」
シュツットガルトはその内外からの批判を全て聞いていたのだ。
「そして今もだな」
「ですがこれからは違うでしょう」
リンデンバーグは未来について言及した。
「過去と現在はともかく」
「未来はか」
「過去は過去です」
彼は言う。
「そして現在では全てが見えるわけではありません」
「人間は現在のものは一つの目でしか見ることはできない」
シュツットガルトの言葉は普段の軍人時代を思わせる謹厳なものから哲学者を思わせる落ち着いた知性を感じさせるものになっていた。
「一つのな」
「全てがわかるのは過ぎ去ってからですね」
「その通りだ。今は多くを見ることはできない」
彼はまた言った。
「人はそういったものだ」
「その通りです。ですがこれからは違います」
「私の政策が間違っていなかったことがわかる」
今度の言葉は断言であっ
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